富山県立中央病院

文字の
サイズ

  • 文字を大きくする
  • 文字を小さくする

お知らせ

ロボット支援下膀胱全摘除術を開始しましたので、 それにあたり従来の開腹での手術の成績を総括します!

2022/06/24

 当院では従来、膀胱全摘除術を開腹下に施行してきましたが、2021年4月よりロボット支援下に行う膀胱全摘除術(RARC)を開始しました。そこで、従来の開腹手術での成績を総括いたしました。

 【対象と方法】
 当院において、電子カルテが導入された2007年4月から2021年4月までの間に施行された膀胱全摘総数(骨盤内臓全摘含む)114例のうち、病理結果が尿路上皮癌であった87例について、後ろ向きに検討した。年度毎の分布は図1の通りである。
 当院における術式は、臍左から恥骨上に至る下腹部正中切開をおき、可及的に腹膜を温存し、膀胱にアプローチした。尿管剥離の際、総腸骨動脈からの栄養血管を温存することに注意し、愛護的に操作した。リンパ節郭清は外腸骨~閉鎖節を郭清した。回腸導管あるいは回腸新膀胱は完全後腹膜化し、尿管-導管吻合および尿管-新膀胱輸入脚吻合はNesbit法で、新膀胱作成はStuder変法にて行った。

図1 膀胱全摘の年度毎症例分布

 【結果】
 男性71例、女性16例。年齢層は41~85歳(中央値69歳)だった。尿路変更に関しては、回腸導管50例、回腸新膀胱35例、尿管皮膚瘻1例、尿路変更なしが1例であった。手術時間は310~857分(中央値479分)、出血量は580~5480ml(中央値1006ml)であった。
 術前化学療法を施行した症例は33例であり、その内訳はGC(ゲムシタビン+シスプラチン)療法が21例、GCarbo(ゲムシタビン+カルボプラチン)療法が9例、MVAC(メソトレキセート+ビンブラスチン+アドリアマイシン+シスプラチン)療法が3例であった。
 TNM分類に関して、Pathological T1(上皮下結合組織浸潤)以下が18例、pT2(固有筋層浸潤)が35例、pT3(膀胱周囲脂肪組織浸潤)が27例、pT4(前立腺間質、精囊、子宮、腟、骨盤壁、腹壁に浸潤)が7例であった。経尿道的手術や術前化学療法に依る影響でpT0だった症例は10例だった。術前の画像評価にて有意なリンパ節腫脹がないにもかかわらず、リンパ節郭清にて転移陽性であった症例が10例確認できた。また術前に遠隔転移が指摘されていたが、膀胱タンポナーデなどQOL改善を目的として膀胱全摘除術を施行した症例が2例あった(図2)。
 解析結果であるが、全症例の5年生存率(OS)は72。6%であった。また、5年非再発率(PFS)は68.4%であった(図3)。Pathological T分類ごとで比較すると、図4,5の通りである。
術後の合併症に関してだが、Clavian-Dindo分類Ⅲ以上のイレウス(イレウス管留置、またはイレウス解除術が必要)を起こした症例は4例(4.6%)だった。また、術後3か月以内の発熱性尿路感染症(尿路閉塞の有無は問わない)の頻度は12例(13.8%)で確認された。尿管吻合部狭窄は1例のみに確認された(図2)。

図2 患者背景
図3 生存率(OS) 非再発率(PFS) (全症例)
図4 生存率(OS) (pT分類ごと)
図5 非再発率(PFS) (pT分類ごと)

 【まとめ】
 膀胱尿路上皮癌に対する膀胱全摘除術の治療成績に関しては、海外論文をみると、Pathological T2の5年生存率は72%、pT3では58%と報告されています(図6)。当科においてはpT2で84.6%、pT3で63.3%と、総数は小さいのですが今回の結果をみる限り、癌のコントロールの観点で治療成績は良好と考えられました。また、合併症の頻度についても、膀胱全摘除、尿路変更術後の合併症として、Clavian-Dindo分類Ⅲ以上の重篤なものが10-15%に起こると報告されています。また、日本では、イレウスが10%程度、急性腎盂腎炎は30%程度にみられたと報告する論文もあります。これらの報告と比べると、当科ではイレウスが4.6%、急性腎盂腎炎は13.8%であったため、周術期の合併症は少なかったと考えられます。回腸導管や新膀胱の完全後腹膜化がイレウス防止に役立っていた可能性が示唆されます。
 当科における膀胱全摘除術の成績は、癌のコントロールの面で諸家と比較して成績は良好と思われました。周術期の合併症が少なく、入院期間を短くできていました。
 今後、ロボット支援下膀胱全摘除術をますます進めていくにあたり、引き続き合併症を減らしつつ、治療成績の向上に努めて参りたいと考えています。

図6 一般的な治療成績

(2021/11/27 日本泌尿器科学会北陸地方会での発表より改変)

2022.6.14
文責:瀬戸、武澤

お知らせ一覧へ戻る

ページトップに戻る