富山県立中央病院

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産婦人科

産科診療に関して

 当院は富山県周産期医療の第3次機関として、最も重要な役割を担っています。
 母体搬送受け入れは、年間70件程度で県内最多です。前期破水を含む切迫早産や妊娠高血圧症候群などの母体合併症、発育不全や形態異常などの胎児合併症など、広く積極的に受け入れています。
 分娩件数は、年間800件程度(うち帝王切開率33%程度)で県内最多です。上記搬送や合併症分娩、妊婦健診未受診や飛び込み分娩など、ハイリスク分娩はもちろん受け入れていますし、帰省分娩などのローリスク分娩も制限なく受け入れており、幅広い症例が集まっています。
 また妊娠期のみならず、分娩時異常出血による出血性ショックも受け入れ対応しています。放射線科はじめ他科連携いただき、子宮動脈塞栓術や癒着胎盤に腸骨動脈内バルーン留置、救命救急センターや集中治療室での集学的治療による全身管理など、母体救命に努めています。
 COVID-19流行期も、積極的に受け入れを行い、全国的にも稀でしたが(北陸では唯一)、COVID-19陽性分娩に対しても、経腟分娩を提供致しました。
 今後も富山県周産期医療の砦として、重要な役割を担い続けます。 

産科病棟、MFICUについて

 1996年10月に総合周産期母子医療センターの全国第1号認定を受けて以来、2011年3月からは新病棟42床で稼動しています。増床に伴い、分娩制限(母体搬送用病床の確保目的)を解除致しました。
 2011年MFICU(Maternal Fetal Intensive Care Unit:母体胎児集中治療管理室)6床設置に伴い、24時間体制で産科専任医を配置しています。
 MFICUとは、妊娠高血圧症候群・前置胎盤・合併症妊娠・切迫早産・胎児異常などハイリスクな母体・胎児に対応する設備です。当院では、分娩時異常出血なども対象に含め、厳重な治療管理で母体救命に努めています。

妊婦健診・外来紹介・母体搬送について

産婦人科photo リスクや紹介状の有無に関わらず、当院での分娩を希望される妊婦さんは受診ください。制限は行っていません。ただしハイリスク症例の紹介も多く、診察順番で優先順位をつけたり、待ち時間が長くなったり、ご迷惑をかける場面も発生致します。ご容赦ください。
 妊婦健診では、医師による診察の他に、助産師による診察(助産師外来:1人30分)も選択できます。分娩に携わる助産師外来を組み入れることで、妊娠中の様々な相談・保健指導・時間をかけた胎児観察での愛着形成の促しを提供しています。
 ハイリスク患者さんの外来紹介・母体搬送に関しては、3名の周産期専門医が主に受けます。当院は富山県周産期医療の第3次機関です。上記MFICUでの集中治療管理に加え、総合病院の利点を活かし、他科専門科と院内連携し、合併症や産後診療にも継続して対応致します。
 当院はBFH(別述)として、母乳育児、安全を担保したカンガルーケア、予定帝王切開に術前経口補液導入などを推進しています。ガイドラインはもちろんですが、自施設の周産期結果を顧みることで、治療の妥当性・改善策検討を行っています。

院内助産について

こちらをご参照ください。

婦人科診療について

 富山県の基幹病院として婦人科がん治療、内視鏡手術(腹腔鏡下/ロボット支援下手術)、女性ヘルスケア(月経のトラブル、骨盤臓器脱や更年期障害など)について高度で集学的、先進的な医療に取り組んでいます。
 婦人科がん治療では富山県のがん診療拠点病院として診療にあたっています。2名の婦人科腫瘍専門医(うち指導医1名)および産婦人科内視鏡技術認定医4名を軸に診療し、修練施設としても県内外から修練医が集まりチームで診療しています。初期がんに対しては機能温存手術を考慮し、進行がんに対しては放射線治療や薬物治療、手術治療を組み合わせて行います。各症例の治療方針についてはカンファレンスで検討を十分行い、患者さんの病状や希望に沿うよう心がけています。
 また、当院では早くから腹腔鏡手術を積極的に行っており、悪性腫瘍にも導入してきました。初期子宮がんについては2015年より保険診療で内視鏡手術を行うことができるようになり、いち早く認定施設として診療してきました。対象となる患者さんに対して満足度の高い手術治療を提供しています。
 女性の健康を思春期から更年期・老年期まで一生涯を通じてサポートすべく女性ヘルスケア診療も重要です。当院では4名の女性ヘルスケア専門医(うち指導医1名)が外来を担当し、月経困難症や更年期障害の診療を行っています。当科では北陸初の月経困難症・子宮内膜症外来を開設し、難治性の月経トラブルを抱えた患者さんにきめ細やかな診療を行っています。女性の健康を左右する月経の管理は、婦人科良悪性疾患の予防という観点からも非常に重要であり、婦人科腫瘍医と女性ヘルスケア専門医がシームレスに診療することで患者さんひとりひとりに合った治療を選択し継続できるよう努めています。また一般の方々にも出張授業や市民講座などで啓蒙活動を行っています。

ロボットについて

 産婦人科分野においてもロボット支援手術が広まってきています。現在当科では3人がダ・ヴィンチの執刀ライセンスを取得しており、今後も順次取得を目指しています。
 当院では子宮良性腫瘍にたいするロボット支援下の腹腔鏡下腟式子宮全摘術を2018年に導入し、2020年1月に初期の子宮体がんにたいする腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術を開始しました。その後骨盤臓器脱にたいする腹腔鏡下仙骨腟固定術も開始し、婦人科で保険収載されているロボット支援手術の3術式すべてを行っています。ロボット支援手術は通常の腹腔鏡手術とくらべておなかに複数あける小さなキズへの負担がさらに小さいといわれており、その結果キズの痛みが小さいとされています。婦人科領域のロボット支援手術は頭を下げる高度頭低位で行っています。安全に行うために脳動脈瘤や緑内障がないかを手術前に確認しています。

 女性ヘルスケアについても女性の一生をサポートすべく学会や研修会での情報収集に努め、診療や市民講座などで啓蒙活動を行っています。

婦人科悪性腫瘍の治療に関して

 婦人科領域の悪性腫瘍は、子宮頸癌・子宮体癌および卵巣癌の3つを中心に治療しており、そのほか腟・外陰癌や子宮肉腫などの稀少腫瘍に対しても治療を積極的に行っています。当院では2名の婦人科腫瘍専門医が常勤し、周辺病院からの紹介を受けて地域のがん診療拠点病院としての役割を担っています。近年対象は限られますが、婦人科悪性腫瘍でも免疫チェックポイント阻害剤の使用が保険診療として認められました。標準治療では治療が難しい場合や標準治療がない場合にはがん遺伝子パネル検査を行って治療薬を探索する症例が増えてきています。また初期子宮がんに対して内視鏡手術を行うことができる認定施設として低侵襲手術を希望される患者さんの紹介も多くなっています。
当院での最近の治療状況を紹介します。

子宮頸癌

 近年子宮頸癌は若年化傾向にあり、当院でも20-30代の前癌~初期癌患者が半数以上を占めます。2017年から2022年までの過去5年間では毎年20例程度の1期以上の浸潤子宮頸癌にたいして診療をおこなってきました。前癌病変での治療数は毎年60件を超えており、半数以上は40歳以下の患者さんです。過去10年間の子宮頚癌は642人(0期:464人、1期以上:178人)でした。1A期までの初期癌では子宮頸部円錐切除術を慎重に行い、のちの妊娠に考慮した治療を心がけています。治療後の妊娠・分娩経験患者も多く、ハイリスク妊娠となるため当院産科外来・周産期センターでの妊娠分娩管理も継続的に行っています。1B期以上の浸潤癌では広汎子宮全滴術による根治を目指しますが、困難な場合は常勤する放射線治療専門医と連携をとり化学療法併用放射線治療を行っています。近年ペンブロリズマブやセミプリマブといった免疫チェックポイント阻害剤が使用可能となり、対象となる症例を検討した上で使用しています。子宮頸癌に対する腹腔鏡下(準)広汎子宮全摘術手術は腫瘍径2cm以下の1B1期に対して、再発リスク等の十分な説明をした上で行っています。5年生存率は0期:100%、1期:96%、2期:80%、3期:63%、4期:25%で全国平均と比較しても良好な予後を得られています。

子宮体癌

 本邦において体癌の罹患数は年々増加傾向にあり,日本人女性の未産化・生活習慣の変化に合わせてますます増加すると予測されます。
 初期子宮体癌(1期)に対して2015年より腹腔鏡下手術が、2018年よりロボット支援下手術が保険適応となり、いち早く当院でも導入しました。進行体癌では手術療法に加えて化学療法を追加し予後の改善を図っています。近年ペンブロリズマブやレンバチニブといった薬剤が使用可能となり、対象となる症例を検討した上で使用しています。また子宮体癌や大腸癌をきっかけにリンチ症候群などの遺伝性疾患が判明することがあり、血縁者を含めたフォローアップが大切と考えています。当科でも年々子宮体癌新規患者は増加しており、毎年80-100人程度の治療を行っています。初期1期での子宮体癌症例に関しては条件が合えば積極的に傷の小さな内視鏡手術(腹腔鏡下/ロボット支援下手術)を行っています。(3割程度は内視鏡手術が施行されています)子宮体癌は過去10年間で286人(0期:6人、1期以上:280人)の新規患者を診療しました。進行例では傍大動脈節リンパ節郭清術を含めた根治手術を行い、5年生存率は0期:100%、1期:85.6%、2期:100%、3期:53.3%と良好な予後を得ています。また治癒の難しい進行・再発子宮体癌ではレンバチニブ・ペンブロリズマブ治療を導入し、治療を行っています。

卵巣癌

 卵巣癌は3つの婦人科悪性腫瘍のうち一番発見が困難で再発も多く治療が難しい癌です。初期には症状がないため6割以上は3期以降の進行癌で初診されます。当院での2017年から2019年までの3年間で170人でした。1期の若年者に対しては妊孕性温存手術を施行しており、術後の妊娠・分娩も可能です。妊孕性温存手術の対象でない患者に対しては、必要がある判断した場合には傍大動脈節リンパ節郭清術まで含めた根治手術を施行し、術後病理診断を確定して再発ハイリスク症例では原則術後化学療法を施行します。最近では手術検体を用いて、目的遺伝子の病的バリアントの有無を総合的に判定するHRD(相同組換え修復欠損)検査を早めに適宜行い、PARP阻害剤による維持療法の選択を行っています。また卵巣癌や乳癌をきっかけに癌抑制遺伝子であるBRCA1/2に病的バリアントが判明し、遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)と診断されることがあります。血縁者を含めたフォローアップや予防的卵巣卵管切除や予防的乳房切除が検討される時代になりました。当院では遺伝診療科と併診し、腹腔鏡手術での予防的卵巣卵管切除を行っています。5年生存率は、1期:92.2%、2期:58.2%、3期:27.1%、4期:16.7%で標準的な成績を維持しています。

センチネル癌としての婦人科悪性腫瘍

 婦人科悪性腫瘍は悪性腫瘍の中でも比較的遺伝的因子が強く影響すると言われています。例えば遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC:乳癌や卵巣癌などが家系内に多発・若年発症する)やリンチ症候群(大腸癌などの消化器癌や子宮体癌を多発する)などは若くして卵巣癌や子宮体癌を発症し見つかることが多く、それをきかっけとして生涯にわたり発症予防や検診をしていく必要があります。当科は卵巣癌や子宮体癌の発症を機に、遺伝診療科を始め他科への紹介や家族への情報提供・遺伝子検査などの相談を行っています。

診療担当表

月曜日 火曜日 水曜日 木曜日 金曜日
1診(妊婦健診) 担当医 担当医 担当医 担当医 担当医
2診(婦人科再診) 小幡 担当医 本多 吉越 谷村
3診(婦人科再診) 炭谷 飴谷 草開(妙) 草開(友)
10診(初診) 飴谷 吉越 炭谷 谷村
13診 担当医 担当医 担当医 担当医 担当医
午後診(1診) 担当医 1ヶ月検診 担当医
午後診(13診専門外来) 担当医

産後健診:木曜13:30から
母乳外来:13:30~15:30
子宝教室A(妊娠16週から) 毎週火曜 14:00~16:30
子宝教室B(妊娠28週から) 毎週金曜 14:00~16:30
助産師外来:9:00~12:00
月経痛内膜症外来:水曜14:00~15:30 完全予約制

医師紹介

医師名・職位 専門分野 資格
部長 谷村 悟 部長
谷村 悟
(たにむら さとし)
内視鏡手術(腹腔鏡、子宮鏡)
骨盤臓器脱
悪性腫瘍
子宮内膜症
日本産婦人科学会専門医・指導医                      
女性ヘルスケア専門医・指導医                       
日本がん治療学会がん治療認定医
日本産婦人科内視鏡学会技術認定医(腹腔鏡、子宮鏡)
日本内視鏡外科学会技術認定医(腹腔鏡)
ダヴィンチロボット手術資格
日本産婦人科内視鏡学会評議員・代表幹事・ガイドライン作成委員
日本骨盤臓器脱手術学会理事
日本産科婦人科学会代議員・ガイドライン評価委員
日本周産期新生児学会評議員
日本婦人科腫瘍学会代議員
日本子宮鏡研究会代表世話人
部長 飴谷 由佳 部長
飴谷 由佳
(あめたに ゆか)
内視鏡手術
思春期疾患
日本産科婦人科学会専門医/指導医
日本産婦人科内視鏡学会技術認定医
南 里恵 部長
南 里恵
(みなみ りえ)
婦人科悪性腫瘍
婦人科一般
日本産科婦人科学会専門医/指導医
日本臨床細胞学会細胞診指導医
日本婦人科腫瘍学会婦人科腫瘍専門医/指導医
NCPR Aコース
日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医
医長 炭谷 崇義 部長
炭谷 崇義
(すみたに たかよし)
周産期医療
婦人科一般
日本産科婦人科学会専門医/指導医
NCPRインストラクター
J-CIMELSインストラクター
日本周産期・新生児医学会母体・胎児専門医/指導医
災害時小児周産期リエゾン
部長
吉越 信一
(よしこし しんいち)
内視鏡手術
婦人科悪性腫瘍
日本産科婦人科学会専門医/指導医
日本婦人科腫瘍学会婦人科腫瘍専門医
日本産科婦人科内視鏡学会腹腔鏡技術認定医
日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医
日本がん治療認定医機構がん治療認定医
医長
小幡 武司
(おばた たけし)
医学博士
日本産科婦人科学会専門医
日本産科婦人科内視鏡学会腹腔鏡技術認定医
日本がん治療認定医機構がん治療認定医
医長
草開 妙
(くさびらき たえ)
医長
草開 友理
(くさびらき ゆり)
不妊症
婦人科一般
日本産婦人科学会専門医
日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医
NCPR Aコース
副医長
本多 真澄
(ほんだ ますみ)
副医長
山口 彩華
(やまぐち あやか)
医員
宇佐美 拓哉
(うさみ たくや)
医師
山本 健太
(やまもと けんた)
医師
松井 俊一郎
(まつい しゅんいちろう)
医師
松田 美智子
(まつだ みちこ)

治療について

腹腔鏡下手術に関して

 腹腔鏡下手術では3~4カ所に小さな穴を開け内視鏡を用いて手術を行います。従来の開腹手術に比べて創部が小さく目立たない、術後の痛みが軽度である、入院期間が短い、社会復帰が早いなどのメリットがあります。腹腔鏡下手術は今日では広く普及し希望される患者さんも年々増加しています。しかし腹腔鏡下手術は一般的に難易度が高く、手術に伴う合併症、後遺症がしばしば話題にされています。当院は婦人科内視鏡学会の施設認定病院で学会技術認定医が4名在籍し、技術習得プログラムに沿った研修を課しながら安全かつ適切な診療を提供するよう研鑽を積んできました。
 当院は1985年から腹腔鏡下手術を開始し、年間約400件の手術を行っており、子宮、卵巣の良性腫瘍から骨盤臓器脱、悪性腫瘍まで腹腔鏡下手術の適応を拡大しています。また2016年に先端医療棟が開設され2018年からは新たにロボット支援下手術も導入し高度な手術が提供できるよう体制を整えました。2022年末で約150件のロボット支援下手術を行っており、着実に施行数が増えている状況です。

悪性腫瘍に対する腹腔鏡下手術

 本邦において、悪性腫瘍に対する腹腔鏡下手術は大腸癌、胃癌などの外科領域で盛んに行われていますが、婦人科領域ではこれまであまり実施されていないのが現状です。しかし、腹腔鏡の特性である拡大視野、深部到達能を考えますと、骨盤深部の操作や繊細な技術が必要な婦人科悪性腫瘍の手術こそが、もっとも適しているのではないかと考えます。当科では全国でも早い段階から婦人科悪性腫瘍に腹腔鏡下手術を導入しています。更にはロボット支援手術も導入し、ますます患者さんに優しく質の高い手術を提供できる体制を整えています。
 悪性手術では病巣を完全切除するため術式により腹部を大きく開腹しなければなりませんが、腹腔鏡下手術ではお腹に小さな孔を5~6箇所開けるだけで済み、美容的に優れ、患者さんの術後の疼痛なども少なく、手術後の回復が早いのが特徴です。また、術後の腸閉塞も少ないというメリットもあります。

(A)子宮体癌に対する腹腔鏡下手術、腹腔鏡下傍大動脈リンパ節郭清術
 当科では子宮体癌の腹腔鏡下手術を地域に先駆けて2012年4月からは先進医療で行い、2014年4月から保険収載されています。
 症例により術式は多少異なりますが、子宮全摘術+両側付属器摘出術+骨盤±傍大動脈リンパ節郭清術が必要となります(図1)。特に傍大動脈リンパ節までを摘出する場合、従来の開腹手術であれば剣状突起から恥骨結合まで切開する必要があり、大きな傷になります (図2)。これに比べて腹腔鏡下手術ではお腹に小さな孔を5~6箇所あけるだけですみ、美容的にかなり優れ、患者さんの術後の疼痛などもかなり少なく、手術翌日から歩くことができます。また、術後の腸閉塞も少ないというメリットもあります。米国の大規模な前向き研究LAP2 studyでは子宮体癌に対して、腹腔鏡下手術と従来の開腹術と予後に差はないという結果もでています。子宮体癌に対する腹腔鏡下手術は患者さんにやさしく、ますます選ばれて普及する手術であると考えています。
図2 開腹術と腹腔鏡下手術の術創の比較

図3 広汎子宮全摘術:膀胱子宮靭帯後層処理 (B)子宮頸癌に対する腹腔鏡下手術
 子宮頸癌に対する広汎子宮全摘術は婦人科領域の手術の中ではもっとも難易度が高いと考えられています。子宮頸癌の根治術としてErnst Wertheimが初めて行い、その後、京都大学岡林秀一教授によって岡林術式として確立されました。最近では患者さんのQOLを向上するため自律神経温存術や術後の下肢リンパ浮腫予防さらには妊孕能温存術などいろいろ術式の改良・工夫が加えられています。しかし、一般的に広汎子宮全摘術は骨盤深部の狭い空間での操作を余儀なくされ、出血量が多く、時には術後QOLを大幅に損なう可能性がある難易度の高い手術手技です。
 腹腔鏡の最大の特性は拡大視野で骨盤深部まで詳細に観察でき、微細構造を確認し、血管一本一本を処理できることです。腹腔鏡の特性を生かせば、骨盤深部の操作が必要な広汎子宮全摘術(図3)やリンパ節郭清術(図4)こそがもっとも腹腔鏡の威力を発揮できる手術ではないかと考えます。
 当科では2015年8月より「子宮頸癌に対する腹腔鏡下広汎子宮全摘術」を先進医療として行い、2018年4月以降は保険診療として行っています。これまで子宮頸癌に対する腹腔鏡下広汎子宮全摘術を30例に行いましたが、従来の開腹術より長時間を要するものの、出血量は少なく(平均出血量300ml、輸血例1例)、入院期間も短く(平均術後7日間)、自律神経温存手術(図5)も十分に可能でした。
図4 腹腔鏡下骨盤リンパ節郭清術
図5 神経温存広汎子宮全摘術

ロボット支援手術について

 産婦人科分野においてもロボット支援手術が広まってきています。現在当科では3人がダ・ヴィンチの執刀ライセンスを取得しており、今後も順次取得を目指しています。
 当院では子宮良性腫瘍にたいするロボット支援下の腹腔鏡下腟式子宮全摘術を2018年に導入し、2020年1月に初期の子宮体がんにたいする腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術を開始しました。その後骨盤臓器脱にたいする腹腔鏡下仙骨腟固定術も開始し、婦人科で保険収載されているロボット支援手術の3術式すべてを行っています。ロボット支援手術は通常の腹腔鏡手術とくらべておなかに複数あける小さなキズへの負担がさらに小さいといわれており、その結果キズの痛みが小さいとされています。婦人科領域のロボット支援手術は頭を下げる高度頭低位で行っています。安全に行うために脳動脈瘤や緑内障がないかを手術前に確認しています。ロボット支援手術にご興味のあるかたは担当医にお尋ねください。

子宮鏡下手術について

 子宮鏡下手術とは腟から子宮に内視鏡(スコープ)を挿入し、子宮内の手術をする方法です。
 子宮内腔に突出する病変(子宮粘膜下筋腫や子宮内膜ポリープなど)に対して、子宮内での手術操作に留まるため、皮膚には全く傷がつかないため、痛みもほとんどありません。
 入院期間が短くて済み、(当院では3日)早期に社会復帰が出来ます。
 当院では子宮鏡技術認定医(日本産科婦人科内視鏡学会認定)が在籍しており年間約160例の手術を行っています。子宮鏡は入口部が狭いため通常子宮筋腫の場合3cm以下の小さな症例が対象となりますが、当院ではより大きな粘膜下筋腫も手術時の工夫により安全に注意して摘出しています。新しい手技の方法などを積極的に広めるべく学会、論文発表をしています。

当院の特徴

写真1 MRI画像 直径6cmの粘膜下筋腫 中央の丸い部分は全て筋腫です。 子宮鏡技術認定医(日本産科婦人科内視鏡学会認定)が在籍しており年間約50例の手術を行っています。子宮鏡は入口部が狭いため通常子宮筋腫の場合3cm以下の小さな症例が対象となりますが、当院では4-9cmの大きな粘膜下筋腫(写真1)も手術時の工夫により摘出しています。このような新しい手技の方法などを積極的に広めるべく学会、論文発表をしています。

対象となる病気

過多月経や貧血、不妊症の原因となる下記の疾患を対象とします。
子宮粘膜下筋腫(子宮の中にできる筋腫)
子宮内膜ポリープ 中隔子宮 子宮腔内癒着症 帝王切開瘢痕症候群など

子宮鏡下手術の長所

 まったく皮膚に傷がないため、痛みもほとんどありません。
入院期間が短くて済み(当院では3日)早期に社会復帰が出来ます。

外来子宮鏡手術

 北陸地区で最初に2022年より子宮鏡シェーバーを用いた外来子宮鏡手術を開始しています。
 主に子宮内膜ポリープが対象です。子宮内膜ポリープは不妊治療中や月経痛・不正出血の精査で見つかる場合が多く、妊娠率の改善や月経困難症の改善が期待できます。
 カメラは通常より細く、8割の患者様が局所麻酔で手術を行うことができ、その場合手術当日の病院滞在時間は約2時間です。希望があれば静脈麻酔を併用することもできます。

深部子宮内膜症

 子宮内膜症の一部の方で、病変が深く入り込んで強い骨盤痛、性交痛、排便痛などを引き起こす場合があり、深部子宮内膜症と呼ばれています。通常の内膜症と異なり、腸管・尿管・神経などの損傷が起きやすい難易度の高い手術になります。しかし、手術時に病変を残すと、性交痛や排便痛は改善されません。当院では高精度な内視鏡カメラを用い、腸管を分離し、神経を温存して病変を切除する術式を行っています。またその術式を学会や論文で発表しています。
 強い骨盤痛、性交痛、排便痛などで不妊症の方や薬が無効な方はご相談ください。

帝王切開瘢痕症候群 :帝王切開後の月経異常と不妊症

1 はじめに

 帝王切開が原因で月経が長くなることは1995年ごろから指摘されていましたが、2003年頃から不妊症の原因として考えられるようになりました。

2 当院の実績

 2008年に国内で初めて帝王切開瘢痕部出血による不妊症に対し内視鏡手術を行いました。瘢痕部の病態によっては腹腔鏡、子宮鏡どちらかの手術もしくは二つの組み合わせが可能であり、同一施設で初めて組み合わせて行いました。症例を積み重ねて2つある術式の選択基準を初めて発表しました。帝王切開瘢痕部を詳細に観察し術前術後の月経を比較することで、帝王切開後の過長月経の原因が瘢痕部の出血で、ホルモンの影響を受けることを初めて示しました。現在まで他県からも問い合わせ・ご紹介をいただき、国内最多の150人に対し治療を行っています。本治療は当院から日本全国に広がり、2022年に保険収載され、現在では保険診療として手術を受けることができるようになりました。

3 特徴的な症状

図1 帝王切開瘢痕症候群の機序子宮にできた凹みに血液がたまることによりいくつかの症状が出てきます(図1)。
1) 長い月経  たまった血液が徐々に腟に出てくるため、通常の月経が一旦終了した後に黒褐色の血液が排卵まで数日続く。
2) 月経痛 月経血の排出障害。
3) 不妊  血液が子宮の中に貯留し不妊症になります。

4 診断

図2 子宮ファイバー検査でみた貯留血液 帝王切開後に子宮にできる凹みはしばしば見られ、きちんと検査を行えば帝王切開後の60%にあると言われています。したがって凹みがあるからといって、全ての人に症状があるわけではありません。超音波検査で疑うことは可能ですが、出血は月経周期の特定な時期にしか観察されず、毎月見えるとは限らないため診断が困難です。私たちの施設では子宮ファイバースコープやMRIを併用し診断しています。図2は腟側から子宮にスコープを挿入して凹みや血液の貯まりを確認しています。検査はすべて外来通院で行います。

5 治療

・手術は子宮鏡単独(図3)または腹腔鏡手術(図4)を行っています。
・手術では瘢痕部を切除します。
・腹腔鏡下手術では薄くなった子宮の修復も行います。
・手術方法の選択は外来検査で判断します。
・子宮鏡手術は3日、腹腔鏡手術は6日の入院です。
・手術後1年以内の妊娠率は64%です。
図3 子宮鏡下手術
図4 腹腔鏡下手術

*図3,4は当院論文 New diagnostic criteria and operative strategy for cesarean scar syndrome: Endoscopic repair for secondary infertility caused by cesarean scar defect. J Obstet Gynaecol Res 41. 1363-1369, 2015 引用

6 まとめ

 すでにお子さんがいらっしゃるため、患者さん自身も不妊症として病院を受診するまでの期間が長くなりがちです(潜在性不妊)。病気として認識していないと診断が困難なため、想像以上にこの病気で悩まれている方は多いかもしれません。帝王切開後になかなか次の妊娠ができない、月経が長くなったという方は検査が必要と思われます。
当院受診希望の方は平日午後に産婦人科外来へ電話でお問い合わせください。

骨盤臓器脱

 骨盤臓器脱は従来子宮脱や性器脱と呼ばれていた病気で、骨盤内臓である子宮や膀胱、直腸が腟内に下がってくる状態を言います。過去に子宮を摘出された方でも起こります。高齢化や高齢出産の増加に伴い、近年骨盤臓器脱で治療を必要とする患者さんが増加しています。治療には腟内に器具を挿入する保存的な方法と手術があり、相談して決定します。

当院の特徴

 腹腔鏡手術を応用し富山県で初めて腹腔鏡下仙骨腟固定術を行いました。本手術は2014年に保険収載された最新の腹腔鏡下メッシュ手術で、再発の少ない手術術式として世界で認められており、子宮全摘は不要で術創部痛も少なく腟の形を元通りに修復可能です。
腹腔鏡手術のメリットを生かし傷が小さく痛みも少なく入院期間も6日程度で済みます。学会・論文発表を多数行い、当院での術式工夫を手術教科書に一部執筆提供しており、安全で確実な手技を提案しています。2021年からはロボット支援下仙骨腟固定術も可能となりました。年間30例以上の骨盤臓器脱を施行しており、ますます増加することが見込まれます。

腹腔鏡下仙骨腟固定術に関する医学書 左:メジカルビュー社2015年、右:金原出版2016年

上記以外にも多彩な手術が選択可能で、症例に応じて検討し選択しています。
・当院で行っている手技一覧
 腹腔鏡手術 : 仙棘靭帯固定術/マックコール手術
 腟式手術 : 腟式子宮全摘術/会陰形成術/肛門挙筋縫縮術/腟壁形成術
 マンチェスター手術(子宮を一部切除)/TVM手術

当院での治療方針

 当院では患者さんの骨盤臓器の状態や年齢、生活環境、希望を考慮して多彩な治療方法を提案しています。また、排尿機能については泌尿器科と連携して治療にあたります。
 下垂症状などでお悩みの方はお気軽にご相談下さい。

不妊治療について

 当院は1990年に富山県初の体外受精を行った病院であり、外来患者さんや婦人科疾患治療後の患者さんを対象に不妊症診療を行ってきました。富山県内でも不妊専門クリニックが開業される中で、合併症をもっている方などへの対応もあり、年間100例くらいの採卵を行っています。保険診療の範囲で一般的な体外受精から、顕微受精、胚の凍結融解なども行っています。原則的に単一胚移植を行っており、多胎の予防に努めています。自己注射の指導なども希望のある方を対象に行い通院の負担軽減にも配慮しています。専門の胚培養士がいないため、ある程度の制限を行った中での施行にはなりますが、今後も妊娠率の向上に向けて努力していきます。

ARTの手技について

IVF – ET(体外受精-胚移植)
採卵した卵子を体外で受精させ、分割胚を子宮内に移植する方法です。採卵後2-3日目で移植したり、5-6日目まで培養を続けて胞胚期になった胚を移植したりすることもできます。また形態良好な受精卵が余った場合は、受精卵の凍結保存も可能で、次回妊娠時に融解胚移植も対応しています。

図1.ICSIの手法顕微授精:ICSI(卵細胞質内精子注入法)
射出精液中の精子数が少ない場合、運動精子が少なく通常の体外受精では受精が困難な場合、運動精子数は十分でも過去の体外受精で受精率が低い場合、無精子症で睾丸から精子を採取した場合などに行なう方法です。顕微鏡で見ながら1匹の精子を卵子の細胞の中に注入する方法です。受精率は75-80%くらいです。

ET(胚移植)
受精卵を子宮に戻すことをいいます。妊娠率をあげるためには、子宮の中に確実に移植する必要があります。
 (1)2日目、3日目移植:採卵後2-3日目に受精卵が4~8分割の状態で移植します。(図2)
 (2)胞胚期移植:採卵後5-6日目に受精卵の分割が進行して胞胚期(図3)になった時点で移植します。妊娠率は高いのですが、胞胚期まで発育してくるのは分割胚3-4個に1個位の割合です。
図2.6-8細胞期胚図3.胞胚期の胚

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