富山県立中央病院

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外科

概要

 主に消化器および乳腺の疾患に対する外科治療を行っています。
 富山県の中核病院であるという性格上あらゆる外科的疾患の患者さんが受診 されますが、中でもがん患者さんが多くを占めています。がん診療連携拠点病院に指定されていますので、がん診療のための高度で専門的な医療の提供に 努めています。
 また、二次・三次救急医療機関として、急性腹症や腹部外傷な どの外科的治療を必要とする緊急症例にも対応できる診療体制をとっています。

外科photo がん診療連携拠点病院として高度で専門的な手術を中心とした癌治療のみならず、基幹・中核病院として悪性疾患以外の消化器・一般外科手術も数多く行っています。平成27年度の総手術件数は1,247件、そのうち全身麻酔手術が1,163件、 緊急手術が197件でした。約6割が悪性疾患に対する手術で、疾患別には食道癌が年間33例、胃癌が178例、大腸癌 が240例、肝胆膵領域癌が92例、乳癌が178例です。胃癌、大腸癌では、比較的早期の症例に対して腹腔鏡下手術を行っており、平成27年度には腹腔鏡下胃切除術が85件、結腸・直腸切除が141件でした。また、肝腫瘍や膵腫瘍に対する腹腔鏡下手術は、平成27年度には肝切除3件、膵切除4件を行いました。悪性疾患に対しては手術療法だけではなく、外来化学療法部門(通院治療室)や放射線科と連携して化学療法や放射線治療も積極的に行っています。さらに悪性腫瘍に伴う苦痛に対しては緩和ケアセンターと連携して、終末期の患者さんに限らず比較的早期から緩和ケアを行っています。

診療担当表

月曜日 火曜日 水曜日 木曜日 金曜日
午前 1診 清水 加治 天谷 清水 加治
2診 天谷 竹下 柄田 竹下 柄田
3診 前田 渡邉 前田 寺井 前田
5診 松井 寺井 松井 渡邉

乳腺外来…月、水、金
乳腺の初診コンサルは9:00~11:00 5診に
ストーマ外来…火、木(15:00~)
6診 初診の診察医は不定

医師紹介

医師名・職位 専門分野 資格
副院長・部長 清水康一 副院長・部長
清水 康一
(しみず こういち)
肝胆膵外科、消化器外科全般 日本外科学会指導医・専門医
日本消化器外科学会指導医・専門医
日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医
日本肝胆膵外科学会高度技能指導医
日本消化器内視鏡学会指導医・専門医
日本臨床外科学会評議員
日本肝胆膵外科学会評議員
日本消化器病学会北陸支部評議員
Microwave Surgery 研究会評議員
富山大学医学部臨床教授
部長 前田基一 部長
前田 基一
(まえだ きいち)
乳癌及び乳腺疾患 日本乳癌学会評議員・専門医・指導医
日本乳癌検診学会評議員
日本外科学会専門医
日本消化器外科学会認定医
日本臨床外科学会評議員
部長 加治正英 部長
加治 正英
(かじ まさひで)
胃癌、内視鏡外科、乳癌、消化器外科全般 日本胃癌学会代議員
日本臨床外科学会評議員
日本消化器外科学会指導医
日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医
日本外科学会専門医・指導医
日本乳癌学会認定医
日本消化器病学会専門医
日本消化器病学会北陸支部評議員
日本内視鏡外科学会技術認定医(胃)
医長 天谷公司 医長
天谷 公司
(あまや こうじ)
消化器外科 日本外科学会専門医
日本消化器外科学会専門医・指導医
日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医
日本消化器内視鏡学会専門医
日本肝胆膵外科学会評議員・高度技能医
医長 松井恒志 医長
松井 恒志
(まつい こうし)
乳腺外科 日本乳癌学会評議員・専門医・指導医
日本外科学会専門医・指導医
日本消化器外科学会専門医・指導医
日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医
日本消化器病学会専門医
日本消化器内視鏡学会専門医
日本肝臓学会専門医
日本がん治療認定医機構がん治療認定医
日本内視鏡外科学会技術認定医
日本肝胆膵外科学会高度技能専門医・評議員
医長 竹下雅樹 医長
竹下 雅樹
(たけした まさき)
消化器外科 日本外科学会専門医・指導医
日本消化器外科学会専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会専門医・指導医
日本消化器病学会専門医
日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医
日本がん治療認定医機構がん治療認定医
医長 柄田智也 医長
柄田 智也
(つかだ ともや)
上部消化管外科 外科学会専門医
消化器外科専門医
消化器病専門医
消化器内視鏡専門医
医学博士
日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医
副医長 寺井志郎 医長
寺井 志郎
(てらい しろう)
消化器外科 日本外科学会専門医
日本消化器外科学会専門医
日本消化器がん外科治療認定医
医長 渡邉利史 医長
渡邉 利史
(わたなべ としふみ)
消化器外科 日本外科学会専門医
日本消化器外科学会専門医
日本消化器がん外科治療認定医
副医長 山崎祐樹 副医長
山崎 祐樹
(やまさき ゆうき)
消化器外科 日本外科学会専門医
日本消化器病学会専門医
日本がん治療認定医機構がん治療認定医
日本消化器外科学会専門医
日本消化器がん外科治療認定医
医師
羽場 祐介
(はば ゆうすけ)
消化器外科 日本外科学会専門医
医師
平野 勝久
(ひらの かつひさ)
医師
丸銭 祥吾
(まるぜん しょうご)
医師
加納 俊輔
(かのう しゅんすけ)
医師
野村 晧三
(のむら こうぞう)
医師
郡司掛 勝也
(ぐんじがけ かつや)

治療について

1.胃癌

図1 胃の各部の名称 食べ物を食べると食道を通って胃に入ります。胃の入口が噴門であり、出口は幽門といい十二指腸から小腸へとつながっています。胃は上部から胃底部、胃体部、幽門前庭部と呼ばれ、大きくカーブしている角が胃角部となります。胃袋は、食べ物の貯蔵庫であり、食べ物は消化液である胃液と混ざり、少しずつ十二指腸から小腸に流れていきます。十二指腸では膵臓で作られる膵液、肝臓で作られる胆汁が分泌され、小腸において食べ物が栄養素に分解されて体内に吸収されます。

 胃がんは、胃にできる“がん”であり胃の内側を覆う粘膜から発生します。そのため内視鏡検査することにより比較的早期に発見することが可能です。
当科では毎年およそ170~180人程度の胃がん患者さんに手術を行っています。消化器内科、腫瘍内科、放射線科、臨床病理科などと綿密に連絡を取り合い、レベルの高い診断と、高度の専門医療を提供しています。また、JCOG (日本臨床腫瘍研究グループ : 国立がん研究センター研究支援センターが研究を直接支援する研究班で、がんに対する標準治療の確立と進歩を目的として多施設共同臨床試験を行っています) に参加し、科学的根拠に基づく最新の胃がんの治療法を確立するため活動しています。
 治療は、これまでの経験に基づいて、患者さん一人一人にきめ細かい配慮をした最善の治療法を提供するよう努力しております。患者さんには入院後、パンフレットを使って、胃がんの説明や手術の準備および退院までの経過について説明しています。入院は手術前日入院が基本で、周術期管理は全例クリニカルパスに沿って行い、術後10日前後で退院されることを目標としております。
図2 年別胃がん手術件数の推移

 早期胃がんに対しては、患者さんの負担が軽くなるように低侵襲である腹腔鏡下胃切除術、腹腔鏡下噴門側胃切除、腹腔鏡下胃全摘術を基本術式としております。通常の開腹手術は20cmほどおなかを切開して手術を行うのに対し、腹腔鏡下手術では腹腔内を炭酸ガスで膨らませて、5~12mmの穴からお腹の中に腹腔鏡(カメラ)や専用の電気メス等の手術器具を入れて、テレビモニターに映し出される腹腔内の様子を観察しながら手術を行う方法です。
開腹手術 腹腔鏡下手術

図4 総肝動脈、脾動脈周囲リンパ節郭清の術中写真 進行胃がんに対しては、幽門側胃切除あるいは胃全摘術と系統的リンパ節郭清が標準術式となりますが、高度進行胃がんでは、手術前に抗がん剤を投与し、その後に手術を施行する場合もあります。

2.大腸癌

 大腸がんの治療法には一般的に内視鏡治療、外科治療、抗癌剤治療、放射線治療などがあります。現在のところ根治を目指すうえで最も確実な方法の一つは外科治療と考えられます。当科では年間150~200件ほどの大腸がん手術を行っており、十分な経験と実績があります。

1.内視鏡治療

 内視鏡を用いて、大腸の内側から癌を切除します。切除したものを顕微鏡検査で確認した際、癌の浅いところ(粘膜)にとどまっている場合は、この治療法で完治が期待できます。しかし、癌が粘膜よりも深くまで潜り込んでいる場合には、大腸の外側のリンパ節に転移している危険性が10%前後あるため、外科治療でそれらも含めて切除することが必要になります。
1.ネアをかけて、2.通電し、3.焼切る

2.外科治療

 上述のように、内視鏡治療で完治が期待できない大腸がんに対しては、外科的に切除する=手術が最も確実な治療となります。一般には、癌を含めた腸管の切除とその周囲のリンパ節を取ることが行われます。手術の方法は、がんの発生部位や大きさ、深さ(深達度)、リンパ節転移や他臓器転移の有無によって異なります。現在当科で行っている外科治療について説明します。

A.腹腔鏡下手術
 基本的には内視鏡的治療が困難な大きさの腫瘍や、浸潤傾向が軽度ながんが対象となりますが、近年では進行がんに対しても行っています。手術時間はやや長くなってしまうこともありますが、4cm前後の小さな傷口で手術が可能であり、回復が早いため、平均して術後10日前後で退院できるようになっています。
【術後7日目での傷口の比較】
開腹手術後の傷口と腹腔鏡手術後の傷口

B.開腹手術
 主に緊急手術 (がんが大きくて腸閉塞をきたしてしまった場合や、腸に穴が開いてしまった場合など) の際には、通常の開腹手術を行うことになります。また、予定手術であっても、がんの転移が高度な場合や、がんが大きくて周りの臓器も巻き込まれてしまっているような場合には、しっかりとがんを取りきるために開腹手術を選択することがあります。

C.再発や転移に対する外科治療
 大腸がんでは、局所の再発あるいは肝転移や肺転移などの他臓器転移に対しても、外科的切除を行うことで治癒が望める場合があります。抗がん剤治療や放射線治療と組み合わせて行う集学的治療を行うこともあり、良好な成績が得られています。
※入院中はクリニカルパスを用いて治療を行っており、検査予定などをスケジュール表に記載してお渡しすることで、治療内容や退院までの流れがわかりやすくなるように努めています。
また、大腸がんでは時に人工肛門(ストーマ)を必要とする手術をしなければいけない場合もあります。ストーマの自己管理ができるよう入院中に看護師と一緒に練習していただきますが、退院後もストーマ専門外来でケアや管理の相談を受けることができます。

3.抗がん剤治療

 進行がんの手術後は再発予防の目的で、抗がん剤による補助化学療法がおこなわれる場合があります。また、外科的切除でがんを取りきることができないような場合にも、抗がん剤治療が必要となります。本邦で一般的に使用されている5-FU、イリノテカン、オキサリプラチンなどの抗がん剤や、ベバシズマブ、パニツムマブ、セツキシマブといった分子標的薬などを注射します。内服の抗癌剤もたくさんの種類があり、状態にあわせて使用薬剤や投与方法を決定します。内服、注射いずれの場合も入院をせず、外来で治療を行うことが可能です。

4.放射線治療

 がんの再発や転移に対して放射線治療が有効な場合もあります。当院の放射線治療科と相談しながら、治療の適応を判断します。
 初診の段階ではがんが大きすぎて取りきるのが困難と思われる場合でも、放射線治療を行うことでがんが縮小し手術で切除できるようになることもあり、術前治療としても期待されています。
※大腸がんだけではなく、潰瘍性大腸炎やクローン病などの難病を中心に、大腸良性疾患に対しても、消化器内科と協力して各種の最新治療を行っています。
また、当院では大腸がんの診断や治療に関するセカンドオピニオンにも応じております。お気軽にご相談ください。

3.乳腺疾患

 当科を受診されたすべての患者さんに対して、乳腺疾患領域においる根拠に基づいた高い水準での診断・治療を提供するように努力しています。患者さんと医師との関係は“信頼”にあると考え、十分なインフォームド・コンセントにより個々の患者さんに最も適した治療法をお勧めしています。当院には、乳がん看護認定看護師がいますので、同じ女性の立場、専門的な立場からのご相談にも応じています。

1. 外来

マンモグラフィ装置 外来初診患者さんには、まず問診表が渡されます。月経の状況や出産・授乳の経験、家族歴、乳がん検診歴の有無、しこりについては、いつ気づいたか、気づいてから大きさは変わらないか、痛みを伴うかなどがきかれます。医師による視・触診のあと、乳房専用のX腺撮影(マンモグラフィと呼びます。乳房をできるだけ引き出し圧迫板で乳房を挟み、圧し広げて乳房を撮影します。)や超音波検査(エコー検査と呼びます。)の画像診断を行います。画像診断で良性か悪性かの区別がつかない場合やがんを疑った場合には、乳房に細い針を刺して細胞を採取する細胞診や、局所麻酔下でやや太い針を刺して行う組織診(針生検)などが必要になります。結果については、1,2週間後に説明します。
適切な治療方針を決めるためには、正しい診断が不可欠です。乳がんかどうかいう診断だけではなく、非浸潤がんなのか浸潤がんなのか、ホルモン受容体やHER2の状況、がんの悪性度(グレード)はどうか、腋窩リンパ節転移はあるのか、などを診断することが重要です。
※乳房にしこりを自覚したり、乳頭からの血性分泌などを認めるような方は病院を受診してください。症状がないからといって安心はできません。40歳からは乳がん検診(住民検診やドック検診、マンモグラフィやエコー検査)を定期的(最低2年に1回)に必ず受診するようにしましょう。

2. 手術

マンモグラフィ 乳がんの手術に際しては、術前に画像診断(マンモグラフィ、エコー、CT、MRIなど)で病巣の広がりをできるだけ正確に把握して、がんをすべてとりきることをめざしています。乳がんを取り残すことなく、できるだけ良い形の乳房を残すことが可能であれば、乳房温存手術(部分的に切除する)をお勧めしています。しかし、がんが広範囲に広がっている場合には乳房切除術(乳房をすべて切除する)を行います。残念ながら乳房切除になった場合でも、乳房再建術を積極的に行っています。乳房再建には人工乳房(インプラント)を用いた再建法と自家組織(自分のからだの一部)を用いた再建法があり、当院形成外科と連携して行っています。
※当院の年間乳がん手術件数は約160~170件で、うち乳房温存手術の割合は50~40%前後です。
※乳房温存手術後は当院放射線治療科の協力により温存乳房に放射線照射を行うことを原則とします。温存乳房内の再発を予防するために行います。

3. その他の治療

●術後は、患者さんそれぞれの乳がんの性質や再発のリスクを考慮して、薬物治療を行います。再発予防効果が確認されているホルモン剤、抗癌剤、抗HER2薬である分子標的治療薬(ハーセプチン)を組み合わせて行います。
腫瘍が大きくそのままでは温存手術ができない場合でも、術前に薬物療法を行い、腫瘍が小さくなれば乳房温存手術が可能になる場合もあります。
ひとりでも多くの患者さんが完治されることを目指しています。
●再発患者さんの治療にあたっては、放射線治療科(局所再発・骨転移・脳転移)、整形外科(骨転移の診断・治療)、脳外科(脳転移の診断・治療)など総合病院の利点を生かし様々な科と連携をとり、それぞれの患者さんに最適な治療法を行っています。

4.食道癌

食道がんの造影検査と内視鏡所見 食道とは、読んで字のごとく「食べ物の通る道」で、口から入った食べ物を胃まで送る働きがあります。この食道の粘膜から発生する悪性腫瘍を食道がんといい、日本ではその90%を扁平上皮がんが占めています。
 当院での食道癌治療は、まずその診断、治療方針の決定、実際の治療を、消化器内科、放射線診断科、放射線治療科、臨床病理科、外科と連携して複数の専門家で治療しています。また、頭頚部がんを重複することも少なくないため、耳鼻科、歯科口腔外科とも連携して診療を行います。
 がんの進行度を診断するために、上部消化管内視鏡、バリウム造影、CT撮影、PET検査などを行い、その進行度に従って、治療方針を決定することとなります。

表1:食道がんのTNM分類(食道癌取扱規約第11版)

T因子
(がんの深さ)
T1a 粘膜内にとどまる
T1b 粘膜下層にとどまる
T2 固有筋層にとどまる
T3 外膜まで及んでいる
T4a 切除できる臓器に浸潤
T4b 切除できない臓器に浸潤
N因子
(リンパ節転移)
N0 リンパ節転移がない
N1 第1群リンパ節のみに転移を認める
N2 第2群リンパ節までに転移を認める
N3 第3群リンパ節までに転移を認める
N4 第3群リンパ節より遠位に転移を認める
M因子
(遠隔転移)
M0 遠隔転移を認めない
M因子
(遠隔転移)
M1 遠隔転移を認める

表2:食道がんの病期分類(食道癌取扱規約第11版)

食道癌の治療には大きく分けて、4つの治療法があります。それは、以下に挙げた、内視鏡治療、手術治療、放射線治療と抗癌剤治療です。

1.内視鏡的粘膜剥離術(ESD)

 癌が食道粘膜の非常に浅いところでとどまっているものでは、リンパ節への転移はほとんどないとされています。内視鏡的粘膜剥離術は、粘膜の癌を内視鏡で見ながら食道の内側から切りとる治療法で、消化器内科が担当しています。

2.外科療法

 手術は身体から癌を切りとってしまう方法で、外科が担当しています。当科では過去5年間(2011年から2015年)に111人の方に対して食道がん手術を提供しています。
 手術では癌を含め食道を切除します。同時にリンパ節を含む周囲の組織も切除します(リンパ節郭清)。食道を切除した後には、食物の通る新しい通り道を作ります(再建)。食道は頸部、胸部、腹部にわたっており、癌のできた場所によって手術方法が異なりますが、最も多い胸部食道癌について以下に述べます。

 原則として胸部食道を全部切除します。胸の中にある食道を切除するために、右側の胸を開きます。また、食道の代わりとなる胃や大腸を胸の中に持ち上げるために、腹も開く必要があります。大きい手術のため、これに耐えられない場合には、開胸せずに頸部と腹部を切開し食道を引き抜く術式(食道抜去術)を行うこともあります。
 がんの進行度によって、手術前・後の放射線治療や抗癌剤治療を組み合わせて治療成績をあげる工夫も行っています。
 また、食道がんの外科療法においても、従来の手術方法と比べて身体的負担(の少ない治療が普及しつつあります。当科では、がんの進行度と患者さんの状態に応じて、傷の小さな胸腔鏡、腹腔鏡手術も行っています。
食道の切除標本

3.放射線治療

 放射線を当てて癌細胞を殺します。放射線治療は治療の目標により、大きく2つに分けられます。癌を治してしまおうと努力する治療(根治照射)と、癌による痛みや出血などの症状を抑さえようとする治療(姑息照射)です。放射線治療は対象病変が多岐にわたることから、非常に複雑であり専ら放射線治療科が担当しています。
A.根治照射:根治治療の対象は、癌を手術で切りとるのは難しいが全身には広がっていない場合、手術が可能だが手術をのりきれるだけの体力がない場合、手術を望まない場合などです。また、手術前あるいは手術後に手術に併用して行われることもあります。より効果をあげるため、通常は抗癌剤治療を同時に行います。
B.姑息照射:骨への転移による痛み、リンパ節転移の気管狭窄による息苦しさ、血痰などを改善するために行われます。これらの症状を和らげるために放射線は非常に有効です。

4.抗癌剤治療

 抗癌剤治療は癌細胞を殺す薬を注射します。抗癌剤は血液の流れにのり、手術では切りとれないところや放射線を当てられないところも含めて、全身に行き渡ります。
 手術前後に手術療法と組み合わせて抗がん剤治療を行う補助療法(術前補助化学療法、術後補助化学療法)と進行・再発病変(全身に癌が転移している)に対して行われる治療に大別されます。また、放射線と組み合わせて(化学放射線療法)放射線治療の効果を高めるために行うこともあります。
 化学療法の内容によって、消化器内科や外科が担当しています。

5.その他

ステント治療A.ステント治療
 各種治療による根治が困難な場合や、癌の広がりのため食道と気管の間に穴があいてしまった場合には、ステント治療を行っています。ステントは網目状の金属でできた筒状のもので、食道癌で狭くなって食べ物が通らなくなった部位や穴があいてしまった部位に、カメラを使ってこれを挿入します。

当院では各診療科が連携しそれぞれの患者さんの状態に最も適した最良の治療を行えるように努力しています。
 また、当院では食道癌に関する診断や治療に関するセカンドオピニオンにも応じております。どうぞ、お気軽にご相談下さい。

5.肝胆膵疾患

図1 肝臓・胆道・膵臓の位置 「肝胆膵」とは肝臓、胆道(胆管、胆のう、乳頭部)、膵臓のことをいいます。これらは消化液やホルモンをつくって食物の消化・吸収に関わるほか、栄養分を体内で利用できるように処理する働きを担っており、お互いが機能的・解剖学的に密接に関連しています。肝胆膵外科手術は、臓器が腹腔の深い位置にあって周囲に重要な血管や神経が走行しているため、高難度で侵襲の大きな手術が多いことが特徴です。また、肝胆膵に発生する悪性腫瘍は治癒率が低いものが多く、難治性がんと呼ばれます。

 以下に当科で治療を行っている主な疾患を示します。当院は日本肝胆膵外科学会高度技能専門医修練施設(A)に認定されており、同学会高度技能指導医のもとで多数の肝胆膵疾患に対して質の高い手術を行っています。また、患者さんの病状によっては、他科と連携して化学療法、内視鏡的治療、放射線治療、血管内治療等を組み合わせて行います。

(1)原発性肝がん
 肝臓から発生する癌のうち約90%を肝細胞がんが占めます。肝細胞がんは肝炎ウイルス、アルコール、脂肪肝などによる慢性肝臓病が原因となってできることが多い病気です。肝切除が最も確実な治療と考えられ、切除可能な場合には積極的に手術を行っています。肝切除以外にも局所療法(ラジオ波・マイクロ波凝固、エタノール注入)、肝動脈塞栓術、化学療法、肝移植などの選択肢があり、腫瘍の大きさ、個数、部位、肝予備能などから最適な方法を選んで、内科、放射線科と連携して治療を行っています。
 肝内胆管がん(胆管細胞がん)、混合型肝がんなどその他の肝がんは肝細胞がんと性質が異なりますが、治療の中心はやはり肝切除になります。

(2)転移性肝がん
 他臓器のがんが肝臓に転移したもので、「○○がんの肝転移」ともいいます。手術はもともとのがん(原発)の治療の一環として考える必要があり、原発がんの特性や他臓器転移の有無などによって切除の適応を判断します。特に原発が大腸がんの場合は肝切除によって根治が得られることも少なくないため、化学療法を組み合わせて積極的に手術を行っています。

(3)胆道がん
胆道は胆管(肝門部領域胆管、遠位胆管)、胆のう、乳頭部に分類されます。胆道がんは外科的切除以外の方法で根治を目指すことが難しいため、治療は手術が最も重要です。拡大手術から縮小手術までの様々な術式の中から病状にあわせた最適なものを選択する必要があります。
 肝門部領域胆管がんでは胆管切除を伴う肝切除術、遠位胆管がんと乳頭部がんでは膵頭十二指腸切除術が主に行われますが、病変が広範囲である場合には両者を同時に切除する(肝膵同時切除)ことがあります。一方で、がんの進展度や全身状態から小範囲切除にとどめるべきと判断された場合には肝外胆管切除のみとすることもあります。胆のうがんは早期であれば胆のう摘出術のみを行い、進行した症例では肝切除を追加します。
 胆道がんの手術は大手術が多く、根治性と安全性のバランスが非常に重要であると考えられます。私たちは進行がんでもあきらめずに切除の可能性を追求しますが、術前に黄疸や胆管炎がある場合には胆道ドレナージを行い、残肝容量の不足が懸念される場合には術前に門脈塞栓術を行って残肝を増大させるなど、手術を安全に行うための配慮も欠かさないよう留意しています。

(4)膵臓がん
膵臓がん(通常型膵がん)は代表的な難治性がんで、発見された時に切除不能と判断されることも多いですが、遠隔転移や主要動脈への浸潤がなければ手術によって根治が得られる可能性があります。当科における切除症例全体(2001~2010年)の5年生存率は約20%です。また近年では、遺残なく切除するための手術手技の工夫や補助化学療法により生存率が徐々に改善しつつあります。
 手術術式は、膵頭部の病変では膵頭十二指腸切除術、膵体部・尾部の病変では膵体尾部切除術が基本となります。門脈や上腸間膜静脈に浸潤があっても遺残なく切除すれば長期生存が得られることがあるため、必要と判断されれば血管合併切除再建も行います。

(5)胆道良性疾患
 胆石症や胆のう炎などの良性疾患に対する手術も多数行っています。胆のう摘出術は痛みの少ない腹腔鏡下手術が一般的になっており、多くの場合、術後3日程度で退院可能です。ただし良性といっても壊疽性胆嚢炎などの重症胆嚢炎は生命に関わることがあるため、緊急手術と厳重な術後全身管理が必要になります。また、胆管結石を合併している場合には手術または内視鏡的処置によって胆管結石の摘出も行います。

 肝胆膵外科の代表的な手術である膵頭十二指腸切除術、膵体尾部切除術、肝切除術について、年別件数の推移をグラフで示します。
図2 年別主要手術件数の推移

◆肝胆膵疾患に対する腹腔鏡下手術
 腹腔鏡下胆のう摘出術は腹腔鏡下手術の中で最も早い時期に開始され、現在では胆石症に対する標準的な治療として広く普及しています。一方で肝胆膵悪性腫瘍の手術は難度が高く、これまで主に開腹手術が行われてきましたが、2010年に肝部分切除術と肝外側区域切除術、2012年には良性・低悪性度腫瘍に対する膵体尾部腫瘍切除術が保険で認められるようになりました。当科ではこれらの手術を慎重に適応を見極めたうえで行っており、2015年までに腹腔鏡下肝切除26例、腹腔鏡下膵切除15例を実施し良好な治療成績を得ています。痛みが少ない、手術時の視野が良いといった腹腔鏡下手術の利点は基本的には他の臓器と共通ですが、開腹手術では特に大きな創が必要で視野確保も難しい肝胆膵の手術は、より腹腔鏡を生かせる領域であると考えています。しかし潜在的に合併症の頻度が高い手術であるため、腹腔鏡の利点を損なわないためにも注意深く行うよう心がけています。
図3 腹腔鏡下肝切除の術中写真
図4 腹腔鏡下膵切除の術中写真

6.おわりに

 富山県立中央病院外科では、地域の中核病院として年間1,200以上の手術を行っています。患者さんの手術後の経過観察においては、富山県内の病院や診療所、地域医療連携医と連携をとりながら、皆様のご要望に添えるようにスタッフ一同努力しています。
 初診の患者さんにつきましては、地域の病院、診療所などの医師の紹介状を持参していただくことにより、検査の重複が避けられ、また通院時間、入院待ちの期間の短縮に有用であると考えています。当科に受診希望の患者さんでかかりつけ医をお持ちの方は、まずその地域の先生にお相談ください。

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