血液内科
概要
当科では、急性白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫などの造血器腫瘍を中心に血液疾患全般の診断・治療を行っています。当院の機動性を活かし、他科とも協力し、迅速に診断と治療が行えるように心がけています。また安全で安心できる医療を実践するため、医師・看護師・薬剤師・検査技師のコミュニケーションを円滑に行い、さらに医事職員や福祉担当者も交え、患者さんを中心としたチーム医療を行います。最新の医学情報をいち早く吸収し、豊富な診療経験をもとに、信頼される診療と充実した研修・教育に努めたいと思っています。
診療担当表
月曜日 | 火曜日 | 水曜日 | 木曜日 | 金曜日 | |
---|---|---|---|---|---|
初診 | ○ | ○ | |||
再診13 | 近藤 | ||||
再診15 | 細川(一般)/近藤 | 近藤 | 漆原 | 近藤 | 漆原 |
造血幹細胞移植外来(月~金)
/は、前半の医師が第1、3、5週、後半の医師が第2、4週
医師紹介
医師名・職位 | 専門分野 | 資格 | |
---|---|---|---|
![]() |
部長 近藤 恭夫 (こんどう ゆきお) |
血液内科一般 化学療法 造血幹細胞移植 |
医学博士 金沢大学医学保健学域医学類(学科)臨床教授 日本内科学会認定医・指導医・総合内科専門医 日本血液学会専門医・指導医 日本造血細胞移植学会認定医 日本血液疾患免疫療法学会評議員 |
![]() |
副医長 辻 紀章 (つじ のりあき) |
血液内科一般 化学療法 造血幹細胞移植 |
医学博士 日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医・指導医 日本血液学会 血液専門医・指導医 日本造血・免疫細胞療法学会 造血細胞移植認定医 |
副医長 漆原 涼太 (うるしはら りょうた) |
血液内科一般 化学療法 造血幹細胞移植 |
日本内科学会 認定内科医 日本血液学会 血液専門医・指導医 医学博士 |
|
医師 奈邊 愛美 (なべ よしみ) |
|||
医師 吉野 裕貴 (よしの ひろき) |
血液内科 | ||
医師 木村 拓未 (きむら たくみ) |
血液内科一般 |
治療について
当科での主な診療について説明します。
1.造血幹細胞移植
当科では、1992年に最初の同種骨髄移植を行い、現在までに850例を超える造血幹細胞移植を実施しています。造血幹細胞とは白血球・赤血球・血小板を造るもとの細胞のことです。この細胞は通常は骨髄中に存在しますが、顆粒球コロニー刺激因子という薬剤を投与すると刺激されて末梢血中に動員されてきます。造血幹細胞移植には、患者さん自身の幹細胞を用いる自家造血幹細胞移植と自分以外の人の幹細胞を移植する同種造血幹細胞移植があります。造血幹細胞を骨髄から採取するときは骨髄移植と呼び、顆粒球コロニー刺激因子を投与し末梢血管から採取して行うときには末梢血幹細胞移植と呼びます。また、出産後の臍の緒と胎盤に残っている赤ちゃんの血液中(臍の緒を切り離した後の不要な血液)にも造血幹細胞が含まれていて、これを移植する方法をさい帯血移植といいます。当科ではあらゆる種類の造血幹細胞移植を患者さんの必要に応じて迅速に行えるように努めています。
2.急性骨髄性白血病
当科は、日本成人白血病研究グループ(Japan Adult Leukemia Study Group:JALSG)の一員になっています。白血病に対しては、JALSGが推奨する治療法に基づき治療を行い、臨床研究(薬の有効性や副作用をみる研究、既存の治療法と新しい治療法を比較する研究など)や観察研究(通常診療での予後観察など)にも参加しています。
急性骨髄性白血病の治療は、標準的な強度の寛解導入療法(ダウノルビシンまたはイダルビシンとシタラビンの組み合わせ)で開始します。特定の遺伝子異常(FLT3-ITD変異)を伴う場合には分子標的薬{キザルチニブ(商品名ヴァンフリタ)}を併用します。完全寛解に至った後は予後不良染色体異常、遺伝子異常などのリスク因子のない方には、地固め療法としての化学療法(症例により大量シタラビン療法行います)を3~4回行い、その後は治療を終了し経過観察を行います。予後不良因子のある方には同種移植を検討します。寛解に至らない方には、救援化学療法の後、比較的早い時期での同種移植を検討します。再発例では、ゲムツズマブオゾガマイシン(商品名マイロターグ)を用いた治療を実施することもあります。
強力な治療が困難な場合には、ベネトクラクス(商品名ベネクレクスタ)にアザシチジン(商品名ビダーザ)ないし低用量シタラビン(商品名キロサイド)を用いた化学療法を行います。
3.急性リンパ性白血病
フィラデルフィア染色体陽性であればイマチニブ(商品名グリベック)などのチロシンキナーゼ阻害薬を含む治療を行い、その後同種移植を検討します。イマチニブ抵抗例や再発例にはダサチニブ(商品名スプリセル)、ポナチニブ(商品名アイクルシグ)を使用します。
フィラデルフィア染色体陰性の急性リンパ性白血病で、35歳未満の若年成人には小児のプロトコールに準じた強力な化学療法を行います。35歳以上の方や予後不良染色体を有する方では、化学療法に引き続き同種移植を検討します。再発例には、抗体製剤であるブリナツモマブ(商品名ビーリンサイトグ)やイノツズマブオゾガマイシン(商品名ベスポンサ)用いた治療を行います。
4.慢性骨髄性白血病
現在イマチニブ(商品名グリベック)、ダサチニブ(商品名スプリセル)、ニロチニブ(商品名タシグナ)、ボスチニブ(商品名ボシュリフ)の4剤が初回治療として使用できます。ダサチニブ・ニロチニブ・ボスチニブは第二世代の薬剤で、イマチニブよりも効果発現が早く、副作用も少ないことからどちらかの薬剤が第一選択薬となります。ダサチニブとニロチニブ、ボスチニブのいずれがより効果が高いかは現在のところ不明です。内服を継続することが大切ですが、一定の要件を満たした場合には内服の中止も相談できます。効果が不十分であったり、副作用のため内服継続が困難な場合には、ポナチニブ(商品名アイクルシグ)の他アシミニブ(商品名セムブリックス)が使用できるようになりました。
5.慢性リンパ性白血病
貧血の程度、血小板減少の程度、脾腫やリンパ節腫大の有無に応じて病期分類を行い治療の必要性を判断します。この疾患は経過の長い疾患であるため、治療に関連した死亡を避ける必要があります。そのため無治療で長期に経過観察することもあります。治療が必要な場合には,ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬のイブルチニブ(商品名イムブルビカ)ないしアカラブルチニブ(商品名カルケンス)で治療を行いますが、フルダラビン(商品名フルダラ)含む化学療法が選択される場合もあります。予後不良染色体を有する場合には、同種移植を検討することもあります。
6.悪性リンパ腫
悪性リンパ腫は、ホジキンリンパ腫とそれ以外の非ホジキンリンパ腫に大別されます。
ホジキンリンパ腫ではCTやFDG-PET/CT等の検査により病期分類を行い、限局期(病変が横隔膜のどちらか一方にのみ存在)ではABVD療法を2~4コース行った後に放射線照射を行います。進行期ではABVD6~8コースないしブレンツキシマブベドチン(商品名アドセトリス)併用ADV療法を行った後、必要に応じて放射線照射を行います。再発または治療抵抗例では、ブレンツキシマブベドチンの他、自家造血幹細胞移植併用大量化学療法、免疫チェックポイント阻害剤であるニボルマブ(商品名オプジーボ)、ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)を含めた治療を検討します。
非ホジキンリンパ腫の中で最も頻度の高いびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)に対しては、リツキシマブ(商品名リツキサン)併用CHOP(R-CHOP)療法を6~8コース行います。ポラツズマブベドチン(商品名ポライビー)併用R-CHP療法も検討されます。限局期の場合には放射線を併用しR-CHOPの回数を減らすこともあります。大脳などの中枢神経から発生したDLBCLには大量メトトレキサートを含む化学療法を行い、60歳未満では放射線照射を追加します。再発例には救援化学療法(CHASER療法など)を行った後、必要に応じて自家造血幹細胞移植併用大量化学療法の他、二重特異性抗体薬であるエプコリタマブ(商品名エプキンリ)による治療を行います。悪性リンパ腫においても再発を繰り返す場合や予後不良な症例に対しては同種移植を検討しています。
濾胞性リンパ腫は進行が緩徐であるためすぐに治療を行わず、まずは経過観察することもあります。治療が必要な症例では、リツキシマブ単剤やBG療法、BR療法、R-CHOP療法などのリツキシマブまたはオビヌツズマブ(商品名ガザイバ)併用化学療法を検討します。再発例には、ベンダムスチン(商品名トレアキシン)、フルダラビン、レナリドミド(商品名レブラミド)、タゼメトスタット(商品名タズベリク)などの治療を検討します。
その他の病理組織型、MALTリンパ腫/辺縁対リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、リンパ形質細胞性リンパ腫/ワルデンストレームマクログロブリン血症、末梢性T細胞性リンパ腫、節外性NK/T細胞リンパ腫、成人T細胞性白血病・リンパ腫、などに対しても最新の医学知見に基づき治療を行います。
7.多発性骨髄腫
当科は、日本細胞移植研究会(Japan Study Group for Cell Therapy and Transplantation:JSCT)の一員になっており、多発性骨髄腫の治療について臨床研究にも参加しています。治療方針は、移植適応の有無で異なります。移植とは、自家造血幹細胞移植併用大量化学療法のことです。一般的には、患者さんが65歳未満であること、重篤な合併症がない、心肺機能など重要な臓器が正常であること、などが移植適応の条件となります。
高齢などで移植適応がない方には、ダラツムマブ(商品名ダラキューロ)、レナリドミド(商品名レブラミド)またはボルテゾミブ(商品名ベルケイド)を用いた治療を行います。有効例ではそれらの薬剤の維持療法を、副作用を観察しながら可能な限り長期に続けます。治療の反応性が弱くなるようなら薬剤を変更し、長期に安定した状態維持を目指します。従来からあるメルファラン(商品名アルケラン)とステロイドホルモンの組み合わせの治療法以外に、上記の薬剤やポマリドマイド(商品名ポマリスト)、カルフィルゾミブ(商品名カイプロリス)、イサツキシマブ(商品名サークリサ)、エロツズマブ(商品名エムプリシティ)など新規薬剤が登場し治療の選択肢が増えました。
移植適応のある方には、ボルテゾミブを用いた治療法などで治療を開始します。その後顆粒球コロニー刺激因子単独ないし大量のシクロフォスファミド(商品名エンドキサン)を用いて自家造血幹細胞を採取し、自家造血幹細胞移植併用大量メルファラン療法(いわゆる自家移植)を行います。その後レナリドミド、イキサゾミブ(商品名ニンラーロ)等による維持療法を検討します。 再発増悪を繰り返す場合には、同種造血幹細胞移植を行うことがあります。
8.骨髄異形成症候群
国際予後スコアリングシステム(International prognostic scoring system:IPSS)等で予後を層別化し、低リスクの方には経過観察、エリスロポエチン製剤(商品名ネスプ)や顆粒球コロニー刺激因子などのサイトカイン療法、輸血療法を中心に治療を行い、一部の症例にはアザシチジン(商品名ビダーザ)による化学療法を行います。また5番染色体長腕欠失を伴う骨髄異形成症候群にはレナリドミドを用いた治療を行います。
高リスクの方には、年齢、合併症、主要臓器機能などを評価した上で同種造血幹細胞移植の適応を判断します。適応があり、ドナーが存在すれば同種造血幹細胞移植を早期に行うことを検討します。適応がない方や、ドナーが存在しない時にはアザシチジンで治療の治療を検討します。