内科(腎・高血圧)
概要
蛋白尿、血尿などの検尿異常、腎機能の異常、高血圧、膠原病の診療を担当しています。腎疾患では、糸球体腎炎、ネフローゼ症候群から、慢性腎不全、透析療法、腎臓移植まで幅広く、総合的な診療を行っています。難治性腎疾患への免疫抑制剤療法やIgA腎症に対する扁桃摘出・ステロイドパルス療法を積極的に施行しています。慢性腎不全患者さんには、看護師、管理栄養士、薬剤師とともに腎臓病教室を開催し、末期腎不全への進行阻止を目指しています。
診療担当表
月曜日 | 火曜日 | 水曜日 | 木曜日 | 金曜日 | |
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再診6(臓器移植外来※) | 川端※ | 篠崎 | 能勢※ | 川端※ | 篠崎 |
再診8 | 能勢※ | 牧石 |
※臓器移植外来は、月、火、水、木のみ
医師紹介
医師名・職位 | 専門分野 | 資格など | |
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副院長・部長 川端 雅彦 (かわばた まさひこ) |
腎臓病 高血圧 血液浄化 腎移植 |
医学博士 日本内科学会総合内科専門医・指導医・地方会評議員 日本腎臓学会腎臓専門医・指導医・評議員 日本高血圧学会特別正会員(FJSH)・専門医・指導医 日本透析医学会専門医・指導医・評議員 金沢大学医学部臨床教授 富山大学医学部臨床教授 |
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医長 篠﨑 康之 (しのざき やすゆき) |
腎臓病 高血圧 膠原病 血液浄化 |
医学博士 日本内科学会総合内科専門医 日本腎臓学会腎臓専門医・評議員 日本リウマチ学会専門医 |
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医長 能勢 知可子 (のせ ちかこ) |
腎臓病 高血圧 膠原病 血液浄化 |
日本内科学会認定内科医・指導医 日本腎臓学会腎臓専門医 |
副医長 牧石 祥平 (まきいし しょうへい) |
腎臓病 高血圧 膠原病 血液浄化 |
日本内科学会認定内科医 | |
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医師 平澤 慧里子 (ひらさわ えりこ) |
腎臓病 | |
医師 石坂 真菜 (いしさか まな) |
治療について
1.腎炎、ネフローゼ症候群、糖尿病性腎症など
年間の入院患者数は延べ約400名、腎生検数は約50例です。腎炎やネフローゼ症候群の診療では、腎生検(腎臓の組織学的診断)を積極的に行い、腎臓専門医が自ら検査から組織診断、治療法の決定まで一貫して担当しています。腎機能障害が進行性と考えられる例には、副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤による治療をしています。ループス腎炎を含む難治症例にはステロイドパルス療法に、シクロスポリン、ミゾリビン、タクロリムスなどの免疫抑制剤による治療を行っています。また、最近高齢者に多く発症し、早期に発見されないと重篤な経過をとることから注目されている急速進行性糸球体腎炎についても、地域の他の医療機関とも連携し、早期発見、早期治療を行っています。
慢性腎炎や糖尿病性腎症による保存期慢性腎不全患者さんには、1から2週間の腎不全教育入院を行っております。薬物治療に加え、食事療法(低蛋白、減塩)や生活指導について看護師、薬剤師、管理栄養士が積極的に関わっています。末期腎不全への移行をできるだけ遅らせるように努力しています。外来では年4回の腎臓病教室を開催しています(参加自由)。
2.透析療法、その他の血液浄化療法
慢性透析に導入される患者数は年間約50例で、人工透析室(血液透析、21床)とこれに隣接するCAPD(腹膜透析)室で、血液透析と腹膜透析を合わせて約60名の維持透析患者さんの治療にあたっています。血液透析件数は年間延べ約8000件で、人工透析室の他に集中治療室(ICU)でも緊急透析や持続的血液浄化療法を行っています。
近隣の医療機関とも緊密に連携して、透析患者さんが急に具合が悪くなった時や手術が必要な時などは協力しています。
3.腎臓移植
北陸で第1号の腎移植は、昭和50年2月に当院において中村武夫、青木周一両先生らにより行われました。平成26年には泌尿器科との協力により9例の腎移植を行い、これは北陸の医療機関では最多の症例数でした。現在までの累計は105例となりました。当院の腎移植症例数は北陸地方のトップレベルにあり、当院は北陸での腎移植医療において中心的な役割を果たしています。腎移植外来では、レシピエントコーディネーター認定看護師が患者さんへの生活指導・相談を行っています。
全国的に心停止・脳死での提供ドナー数が少ないため献腎移植の症例数は減少傾向で、生体腎移植症例が増加しています。当院でも夫婦間やABO血液型不適合での生体腎移植、さらに透析導入前の腎移植(先行的腎移植)が増加しています。免疫抑制剤治療の進歩により移植後の経過は良好で、当院の2003年以降の症例の5年腎生着率(移植5年後も移植腎が機能し透析療法が不要な患者さんの割合)は92%です。腎臓内科では、泌尿器科、血管外科と共同して腎移植チームを作り、お互いによく連携しながら内科的な治療、管理を中心に移植医療にあたっています。長年の透析療法を余儀なくされていた患者さんにとって、透析から解放されるすばらしい治療であり大変喜んでいただいています。
【地域の医療機関の皆様向け】慢性腎臓病(CKD)の地域連携
次のいずれかに該当する慢性腎臓病患者さんは、遠慮なく当科外来にご紹介下さい。
a) 蛋白尿:0.5 g/gクレアチニン(Cre)以上または2+以上
b) 蛋白尿と血尿がともに陽性
c) 推算糸球体濾過量(eGFR):50 mL/min/1.73 m2未満(70歳以上では40未満)
蛋白尿は、随時尿で蛋白とCreの定量を同時に行い、1 g Cre当たりで定量評価します。腎機能の悪化速度が早い例、血圧のコントロールが不良な場合には、当科で入院精査の上、治療方針を決定いたします。安定した患者さんはかかりつけの先生との並診を依頼させていただきます。日本の慢性腎臓病患者数は1,300万人余り(成人人口の約13%)とされ、透析療法が必要な末期腎不全(現在32万人)へ至る「予備軍」です。その管理・治療では、進行を遅らせることと心血管系合併症を予防することが重要です。よろしくお願いいたします。
【地域の医療機関の皆様向け】運動後急性腎不全
若年男性の「運動後急性腎不全」の症例を経験しました。金沢医科大学腎臓内科の前教授、石川 勳先生が、1981年に発見、命名された疾患です。短距離走などの短時間の激しい無酸素運動の後に、強い背腰痛を伴う急性腎不全を発症します。CKや血中ミオグロビンの増加は小さく、腎機能の予後は良好です。造影CTでの楔形の造影剤残存(腎虚血)所見が特徴です。2005年末までに173例の報告があるようですが、報告例の多くは若い男性で、6割の症例が腎性低尿酸血症を有しており、これが発症危険因子の一つとされています。
無酸素運動ではタイプ2の骨格筋線維(白筋、速筋)が使われます。この筋線維が損傷された結果、何らかの血管作動性物質が放出され、これが腎の循環障害、血管攣縮を生じさせるとの仮説がありますが、発症機序は不明です。低尿酸血症では、活性酸素のスカベンジャーである尿酸が少ないため、腎血管が活性酸素の影響を受けやすいのではないかと考えられています。
【症例】
20歳台、男性。
【現病歴】
夕食後に友人と激しい運動を90分間行い、その直後より倦怠感、悪心、嘔吐、背腰痛が出現しました。翌日、近医でCre 1.67 mg/dLの腎機能低下と蛋白尿(3+)を指摘されました。その後も嘔吐と背腰痛が持続するため第4病日に当科を初診しました。
【初診時所見】> 血圧147/87 mmHg、腹部で肝臓・脾臓・腎臓は触知せず、両背部に軽度の叩打痛あり。WBCは 12,100/μLと増加、Hb 14.6 g/dLと貧血なし。CK 530 IU/Lと軽度上昇、これ以外の酵素はAST 13、ALT 32、LDH 173、Amyl 28と異常なし。BUN 40 mg/dl、Cre 5.6 mg/dl、eGFR 12と腎機能はさらに悪化。UA 5.5 mg/dL、K 4.4 mEq/Lといずれも正常。検尿では尿蛋白(2+)、潜血(-)、尿沈渣で円柱なし、尿中Na排泄率(FENa)1.1%と正常。
【入院後の経過】
入院時の単純CTスキャンは、腎の軽度腫大所見以外に異常なし。GIFでは特記すべき所見なし。血圧、尿量がともに保たれていたため、Kを含まないソリタT1の輸液で経過をみました。血清クレアチニンはピーク値6.7 mg/dLまで上昇し、その後、下降しました。背腰痛、悪心も軽快しました。クレアチニン2.7 mg/dLの時に造影CTを施行したところ、造影12時間後の単純撮影で運動後急性腎不全に特徴的な楔形の造影剤残存所見がみられました(図)。入院第12病日にクレアチニンは0.9 mg/dLと正常化し退院となりました。退院時、血清尿酸は0.9 mg/dLときわめて低値で、尿中尿酸排泄率(FEUA)は47%(正常:7-12%)と排泄亢進がみられ、腎性低尿酸血症と診断しました。
【診断】腎性低尿酸血症に発症した運動後急性腎不全
このような疾患が疑われる患者さんがおられましたらご紹介いただければ幸いです。
【地域の医療機関の皆様向け】抗好中球細胞質抗体(ANCA)陽性の急速進行性腎炎
抗好中球細胞質抗体(ANCA)陽性の急速進行性腎炎として当院にご紹介頂き、治療が効奏した症例を提示いたします。
ANCAは、好中球の細胞質に対する自己抗体です。好中球の脱顆粒により糸球体毛細血管が破綻し、血漿成分が糸球体のボウマン腔内に放出される結果、ボウマン腔内に細胞増殖が引き起こされ半月体が形成されます。半月体が数多くの糸球体で形成されますと腎機能は急速に低下します。ANCA関連腎炎(血管炎)は、高齢者に比較的多くみられる予後不良の疾患であり、早期に発見され治療を開始すれば、腎不全への進展を防止し、生命予後を改善させることができます。腎外病変として、肺出血(血痰、喀血)を認めることがあります。
<早期発見のための診断指針>(日本腎臓学会)
① 尿所見異常(主に血尿や蛋白尿、円柱尿)
② 血清クレアチニンが正常値よりも上昇
③ CRP高値や赤沈高値
日本腎臓学会では、この①から③を認める場合、「急速進行性腎炎の疑い」として腎専門病院への紹介を勧めています。貧血(正色素性正球性)の合併や、ANCA陽性も診断上参考になります。円柱尿では、特に赤血球円柱の存在が、糸球体での出血を示唆して重要です。
【症例】
70歳台、男性。
【現病歴】
平成14年より高血圧、高脂血症にて治療中でした。平成18年5月より蛋白尿と潜血を認めました。その後、腎機能は、Cr値が0.7 mg/dlから7月には1.5、8月には1.6と上昇し、明らかな貧血の進行(Hb 6.8 g/dl、胃内視鏡正常、便潜血陰性)を認めました。加えて採血にてANCAが40.9 U/ml(正常9.0未満)と陽性であったため紹介いただき、入院となりました。
【初診時所見】
血圧172/81 mmHg、下腿に浮腫あり。RBC 206万/μl、Hb 6.3 g/dl、Ht 19.6%と貧血は進行しておりました。尿蛋白3+、潜血3+、尿沈渣で赤血球100以上/視野、赤血球円柱、硝子円柱、上皮円柱、蝋様円柱をいずれも認めました。BUN 33 mg/dl、Cr 2.2 mg/dlと腎機能はさらに悪化していました。1日尿蛋白量は3.9 g、24時間Ccrは19 ml/minでした。MPO-ANCA 67 U/mlと陽性 、PR3-ANCA は3.5未満で陰性でした。赤沈は140 mm/時間と高度に亢進していました。
【入院後の経過】
CTスキャンにて腎臓の萎縮がみられないため、腎生検の適応と判断しました。腎生検の標本中には約20個の糸球体が含まれ、このうち10個の糸球体に半月体(細胞性から線維細胞性)が認められました(上図)。さらに小葉間動脈に好中球の浸潤を認めました。
免疫グロブリンと補体の沈着はみられませんでした。ANCA関連血管炎(顕微鏡的多発血管炎の疑い)と診断しました。臨床経過からは急速進行性腎炎、病理組織学的には半月体形成性腎炎に該当します。副腎皮質ステロイドのパルス療法を開始し、現在、外来でステロイド(プレドニゾロン)を内服中です。腎機能はCr 1.8 mg/dlに改善し、ANCA値は6.2 U/mlと陰性化しています。
【診断】
急速進行性腎炎(MPO-ANCA陽性、顕微鏡的多発血管炎の疑い)
このような疾患が疑われる患者さんがおられましたらご紹介いただければ幸いです。