産婦人科
産科診療に関して
当院は富山県内の周産期診療第3次病院として最も重要な役割を担っています。母体搬送受入数は県内トップで年間100件に上ります。切迫早産や前期破水、妊娠高血圧症候群などから胎児異常症例まで積極的に受け入れを行っています。また妊娠期のみならず、産後過多出血による分娩後の出血性ショック症例の対応も行っています。
年間の分娩件数は、県内でも減少傾向の中、平成24年811症例、平成27年959症例、平成29年917症例、平成30年969症例、令和1年943症例と増加傾向にあります。帝王切開症例は年間300-350件(帝王切開率は35%前後)に達します。未受診妊婦や飛び込み分娩などのハイリスク症例のみならず、帰省分娩などのローリスク症例も分娩制限などは行わずに受け入れを行っており、幅広い症例が集まる病院です。
突発的な分娩時の大量出血に対する緊急処置に関しても、放射線科の協力の下、子宮動脈塞栓術や前置癒着胎盤症例については両側総腸骨動脈のバルーン留置を積極的に施行し母体の救命に努力を行っています。
今後も富山県内の周産期医療の砦として重要な役割を担い続けていきます。
産科病棟、MFICUについて
平成8年10月に総合周産期母子医療センターの全国第1号認定を受けて以来、平成23年3月からは新病棟42床で稼動しています。MFICU(Maternal Fetal Intensive Care Unit:母体胎児集中治療管理室)6床設置に伴い、24時間体制で産科専任医を配置しています。
MFICUとは、妊娠高血圧症候群・前置胎盤・合併症妊娠・切迫早産・胎児異常などリスクの高い母体・胎児に対応するための設備です。開設以来、年間約180件の入院があり高度かつ厳重な母胎管理を行っています。当院では産後過多出血など母体救命を要する症例も対象とし、厳重な治療管理を提供しています。
平成24年5月には産科病棟・NICU間に手術室2室を新設し、帝王切開術など自科麻酔下手術・体外受精・小児外科手術を開始しました。ハイリスク児の出産(産科病棟)・入院加療(NICU)・手術という一連の加療を同フロアで行い、児の搬送時リスクを軽減し、自己完結型の総合周産期母子医療センターとして活動しています。
妊婦健診・外来紹介・母体搬送について
新病棟増床に伴い、分娩制限(母体搬送用病床の確保目的)を解除しています。リスク有無に関わらず、当院での分娩を希望される妊婦さんは受診してくださって結構です。ただハイリスク妊娠・分娩診療の専門病院であるため、患者さんのうちで優先をつけさせていただいたり通常の妊婦健診の待ち時間が長くなり、ご迷惑をかけてしまうかもしれません。妊婦健診では、医師によるチェックの他に、実際分娩時に取り上げる当院周産期センター常勤の助産師が助産師外来(1人30分)を行っています。この助産師外来を組み合わせることで医療的な問題以外の妊娠中のさまざまな相談・保健指導・時間をかけた胎児観察での愛着形成などを提供しています。
周産期高リスク患者さんの外来紹介・母体搬送に関しては、2名の周産期専門医が主に受けます。当院は富山県の第3次周産期救急病院として年間約100件程度の母体搬を取り扱っています。上記MFICUでの集中治療管理に加え、総合病院ゆえ他科専門科との院内連携を生かして合併症および産後の診療にも継続的に対応しています。
分娩数は、平成27年959例、28年951例、29年917例、30年969例、令和1年943例と増加中で県内外の分娩施設の縮小や閉鎖および高リスク妊娠の増加を反映しているものと思われます。
当院はBFH(別述)として母乳育児、安全を担保したカンガルーケア、予定帝王切開に術前経口補液導入などを推進しています。ガイドラインはもちろんですが、自施設の周産期結果を省みることで、治療の妥当性・改善策検討を行っています。
院内助産について
こちらをご参照ください。
婦人科診療について
富山県の基幹病院として婦人科がん治療、内視鏡手術、女性ヘルスケア(月経のトラブル、骨盤臓器脱や更年期障害)について高度で集学的、先進的な医療に取り組んでいます。
婦人科がん治療では富山県のがん診療拠点病院として診療にあたっています。初期がんに対しては機能温存手術を考慮し、進行がんに対しては放射線治療や抗癌剤治療、手術治療を組み合わせて行っています。各症例の治療方針についてはカンファレンスで検討を十分行い、患者さんの病状や希望に沿うよう心がけています。
また、当院では早くから内視鏡手術を積極的に行っており、悪性腫瘍にも導入しています。子宮体がんについては保険診療で腹腔鏡手術を行うことができる認定施設となっており、初期子宮体がんの適応患者さんにとって満足度の高い手術治療を提供しています。子宮頸がんについても平成26年8月に先進医療での実施を認可されました。腹腔鏡手術の研修施設として県外からも医師が集まり熱心に研修しています。
女性ヘルスケアについても女性の一生をサポートすべく学会や研修会での情報収集に努め、診療や市民講座などで啓蒙活動を行っています。
婦人科悪性腫瘍の治療に関して
婦人科領域の悪性腫瘍は、子宮頸癌・子宮体癌および卵巣癌の3つを中心に治療しており、そのほか腟・外陰癌や子宮肉腫などの稀少腫瘍も治療を積極的に行っています。当院では2名の婦人科腫瘍専門医が常勤し、周辺病院からの紹介を受けて地域のがん診療拠点病院としての役割を担っています。また初期子宮悪性腫瘍手術にも腹腔鏡手術を行うことができる認定施設として低侵襲手術を希望される患者さんの紹介も多くなっています。当院での最近の治療状況を紹介します。
子宮頸癌
近年子宮頸癌は若年化傾向にあり、当院でも20-30代の前癌~初期癌患者が半数以上を占めます。過去10年間の子宮頚癌は642人(0期:464人、1期以上:178人)でした。1A期までの初期癌では子宮頸部円錐切除術を慎重に行い、のちの妊娠に考慮した治療を心がけています。治療後の妊娠・分娩経験患者も多く、当院産科外来・周産期センターでの妊娠分娩管理も継続的に行っています。1B期以上の浸潤癌では広汎子宮全滴術による根治を目指しますが、困難な場合は常勤する放射線治療専門医と連携をとり化学療法併用放射線治療を行っています。5年生存率は0期:100%、1期:96%、2期:80%、3期:63%、4期:25%で全国平均と比較しても良好な予後を得られています。
子宮体癌
本邦において体癌の罹患数は年々増加傾向にあり,日本人女性の未産化・生活習慣の変化に合わせてますます増加すると予測されます。
2015年より1期初期体癌での腹腔鏡下手術が保険適応となり、いち早く当院でも導入しました。進行体癌では手術療法に加えて化学療法を追加し予後の改善を図っています。 子宮体癌は過去10年間で286人(0期:6人、1期以上:280人)の新規患者を診療しました。進行例では傍大動脈節リンパ節郭清術を含めた根治手術を行い、5年生存率は0期:100%、1期:85.6%、2期:100%、3期:53.3%と良好な予後を得ています。今後は1期初期癌での早期発見を目指し、低侵襲で術後のQOLを重視した腹腔鏡手術の提供を進めていく予定です。
卵巣癌
卵巣癌は3つの婦人科悪性腫瘍のうち一番発見が困難で治療も難しい癌です。初期には症状がないため6割以上は3期以降の進行癌で初診されます。当院での新規卵巣癌は過去10年間で260人(LPMも含む)でした。1期の若年者に対しては妊孕性温存手術を施行しており、術後の妊娠・分娩も可能です。妊孕性温存手術の対象でない患者に対しては、可能な限り傍大動脈節リンパ節郭清術を含めた根治手術を施行し、術後病理診断を確定して再発ハイリスク症例では原則術後化学療法を施行します。今日ではタキソール+カルボプラチンを標準治療として6コース施行し予後の改善を目指しています。 5年生存率は、1期:92.2%、2期:58.2%、3期:27.1%、4期:16.7%で標準的な成績を維持しています。2014年12月より血管新生阻害薬を化学療法に併用し、3期以上の進行卵巣癌症例や癌性胸腹水を伴う難治性症例に対しても予後・QOLの改善を図るよう努力し続けています。
診療担当表
月曜日 | 火曜日 | 水曜日 | 木曜日 | 金曜日 | |
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1診(妊婦健診) | 担当医 | 担当医 | 担当医 | 担当医 | 担当医 |
2診(婦人科再診) | 小幡 | 担当医 | 本多 | 吉越 | 谷村 |
3診(婦人科再診) | 炭谷 | 南 | 飴谷 | 草開(妙) | 草開(友) |
10診(初診) | 飴谷 | 吉越 | 炭谷 | 谷村 | 南 |
13診(妊婦健診) | 担当医 | 担当医 | 担当医 | 担当医 | 担当医 |
午後診(1診) | 担当医 | 1ヶ月検診 | 担当医 | ||
午後診(13診専門外来) | 担当医 |
産後健診:木曜13:30から
母乳外来:14:00~16:00
子宝教室A(妊娠16週から) 毎週火曜 14:00~16:30
子宝教室B(妊娠28週から) 毎週金曜 14:00~16:30
助産師外来:9:00~12:00
月経痛内膜症外来:水曜14:00~15:30 完全予約制
医師紹介
医師名・職位 | 専門分野 | 資格など | |
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部長 谷村 悟 (たにむら さとし) |
内視鏡手術(腹腔鏡、子宮鏡) 骨盤臓器脱 悪性腫瘍 子宮内膜症 |
日本産婦人科学会専門医・指導医 女性ヘルスケア専門医・指導医 日本がん治療学会がん治療認定医 日本産婦人科内視鏡学会技術認定医(腹腔鏡、子宮鏡) 日本内視鏡外科学会技術認定医(腹腔鏡) ダヴィンチロボット手術資格 日本産婦人科内視鏡学会評議員・代表幹事・ガイドライン作成委員 日本骨盤臓器脱手術学会理事 日本産科婦人科学会代議員・ガイドライン評価委員 日本周産期新生児学会評議員 日本婦人科腫瘍学会代議員 日本子宮鏡研究会代表世話人 |
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部長 飴谷 由佳 (あめたに ゆか) |
内視鏡手術 思春期疾患 |
日本産婦人科学会専門医 日本産婦人科内視鏡学会技術認定医 |
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部長 南 里恵 (みなみ りえ) |
婦人科悪性腫瘍 婦人科一般 |
日本産婦人科学会専門医・指導医 日本臨床細胞学会細胞診指導医 日本女性医学会女性ヘルスケア専門医 日本産婦人科腫瘍学会婦人科腫瘍専門医・指導医 NCPR Aコース |
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部長 炭谷 崇義 (すみたに たかよし) |
周産期医療 婦人科一般 |
日本産婦人科学会専門医・指導医 日本周産期・新生児医学会母体・胎児専門医・指導医 NCPR インストラクター J-CIMELS インストラクター 母体保護法指導医 |
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部長 吉越 信一 (よしこし しんいち) |
内視鏡手術 婦人科悪性腫瘍 |
日本婦人科学会専門医 日本婦人科内視鏡学会技術認定医 日本女性医学会女性ヘルスケア専門医 がん治療認定機構認定がん治療認定医 NCPR インストラクター 母体保護法指定医 |
医長 小幡 武司 (おばた たけし) |
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医長 草開 妙 (くさびらき たえ) |
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副医長 草開 友理 (くさびらき ゆり) |
不妊症 婦人科一般 |
日本産婦人科学会専門医 日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医 NCPR Aコース |
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副医長 本多 真澄 (ほんだ ますみ) |
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医員 山口 彩華 (やまぐち あやか) |
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医師 森田 章嗣 (もりた のりつぐ) |
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医師 曽根 香穂 (そね かほ) |
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医師 林 晃輝 (はやし こうき) |
産婦人科一般 |
日本産科婦人科学会会員 AHA BLS/ACLS/PEARS/PALS プロバイダー ACLS-EP NCPR Aコース J-CIMELS ベーシックコース |
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医師 松田 美智子 (まつだ みちこ) |
治療について
腹腔鏡下手術に関して
腹腔鏡下手術とは3~4カ所の小さな創で内視鏡を用いて手術を行います。従来の開腹手術に比べて創部が小さく目立たない、術後の痛みが軽度である、入院期間が短い、社会復帰が早いなどのメリットがあります。腹腔鏡下手術は今日では広く普及し希望される患者さんも年々増加しています。しかし腹腔鏡下手術は一般的に難易度が高く医療ミスや手術に伴う合併症、後遺症がしばしば話題にされています。当院は婦人科内視鏡学会の施設認定病院で学会技術認定医が3名在籍し、技術習得プログラムに沿った研修を課しながら安全かつ適切な診療を提供するよう研鑽を積んできました。
当院は1985年から腹腔鏡下手術を開始し現在まで約5000件の施行実績があり、子宮、卵巣の良性腫瘍から骨盤臓器脱、悪性腫瘍まで腹腔鏡下手術の適応を拡大し年間約400件の腹腔鏡下手術を行っています。2016年に先端医療棟が建設され新手術室も開設します。より腹腔鏡下手術に適した環境や手術支援ロボットも導入予定であり、さらに安全で高度な手術が提供出来るよう体制を整えています。
悪性腫瘍に対する腹腔鏡下手術
本邦において、悪性腫瘍に対する腹腔鏡下手術は大腸癌、胃癌などの外科領域で盛んに行われていますが、婦人科領域ではこれまであまり実施されていないのが現状です。しかし、腹腔鏡の特性である拡大視野、深部到達能を考えますと、骨盤深部の操作や繊細な技術が必要な婦人科悪性腫瘍の手術こそが、もっとも適しているのではないかと考えます。当科では以前より婦人科悪性腫瘍に腹腔鏡下手術を導入し、ています。ロボット支援手術も導入しており、ますます質の高い手術を提供できると考えています。
(A)子宮体癌に対する腹腔鏡下手術
当科では子宮体癌の腹腔鏡下手術を地域に先駆けて2012年4月からは先進医療で、2014年4月から保険収載され保険診療で行っています。
症例により術式は多少異なりますが、子宮全摘術+両側付属器摘出術+骨盤±傍大動脈リンパ節郭清術が必要となります(図1)。特に傍大動脈リンパ節までを摘出する場合、従来の開腹手術であれば剣状突起から恥骨結合まで切開する必要があり、大きな傷になります (図2)。これに比べて腹腔鏡下手術ではお腹に小さな孔を5~6箇所あけるだけですみ、美容的にかなり優れ、患者さんの術後の疼痛などもかなり少なく、手術翌日から歩くことができます。また、術後の腸閉塞も少ないというメリットもあります。米国の大規模な前向き研究LAP2 studyでは子宮体癌に対して、腹腔鏡下手術と従来の開腹術と予後に差はないという結果もでています。子宮体癌に対する腹腔鏡下手術は患者さんにやさしく、ますます選ばれて普及する手術であると考えています。
(B)子宮頸癌に対する腹腔鏡下手術
子宮頸癌に対する広汎子宮全摘術は婦人科領域の手術の中ではもっとも難易度が高いと考えられています。子宮頸癌の根治術としてErnst Wertheimが初めて行い、その後、京都大学岡林秀一教授によって岡林術式として確立されました。最近では患者さんのQOLを向上するため自律神経温存術や術後の下肢リンパ浮腫予防さらには妊孕能温存術などいろいろ術式の改良・工夫が加えられています。しかし、一般的に広汎子宮全摘術は骨盤深部の狭い空間での操作を余儀なくされ、出血量が多く、時には術後QOLを大幅に損なう可能性がある難易度の高い手術手技です。
腹腔鏡の最大の特性は拡大視野で骨盤深部まで詳細に観察でき、微細構造を確認し、血管一本一本を処理できることです。腹腔鏡の特性を生かせば、骨盤深部の操作が必要な広汎子宮全摘術(図3)やリンパ節郭清術(図4)こそがもっとも腹腔鏡の威力を発揮できる手術ではないかと考えます。
当科では2015年8月より「子宮頸癌に対する腹腔鏡下広汎子宮全摘術」を先進医療として行っています。これまで子宮頸癌に対する腹腔鏡下広汎子宮全摘術を30例に行いましたが、従来の開腹術より長時間を要するものの、出血量は少なく(平均出血量300ml、輸血例1例)、入院期間も短く(平均術後7日間)、自律神経温存手術(図5)も十分に可能でした。
ロボット支援手術について
産婦人科分野においてもロボット支援手術が広まってきています。
当院では子宮良性腫瘍にたいするロボット支援下の腹腔鏡下膣式子宮全摘術を2018年に導入し、2020年1月に初期の子宮体がんにたいする腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術も開始しました。現在、骨盤臓器脱にたいする腹腔鏡下仙骨腟固定術も開始計画中です。ロボット支援手術は通常の腹腔鏡手術とくらべておなかに複数あける小さなキズへの負担が小さいといわれており、その結果キズの痛みが小さいとされています。ロボット支援手術にご興味のあるかたは担当医にお尋ねください。
子宮鏡下手術について
子宮鏡下手術とは腟から子宮に内視鏡(スコープ)を挿入し、子宮内の手術をする方法です。
当院の特徴
子宮鏡技術認定医(日本産科婦人科内視鏡学会認定)が在籍しており年間約50例の手術を行っています。子宮鏡は入口部が狭いため通常子宮筋腫の場合3cm以下の小さな症例が対象となりますが、当院では4-9cmの大きな粘膜下筋腫(写真1)も手術時の工夫により摘出しています。このような新しい手技の方法などを積極的に広めるべく学会、論文発表をしています。
対象となる病気
過多月経や貧血、不妊症の原因となる下記の疾患を対象とします。
子宮粘膜下筋腫(子宮の中にできる筋腫)
子宮内膜ポリープ 中隔子宮 子宮腔内癒着症 帝王切開瘢痕症候群など
子宮鏡下手術の長所
まったく皮膚に傷がないため、痛みもほとんどありません。
入院期間が短くて済み(当院では3日)早期に社会復帰が出来ます。
深部子宮内膜症
子宮内膜症の一部の方で、病変が深く入り込んで強い骨盤痛、性交痛、排便痛などを引き起こす場合があり、深部子宮内膜症と呼ばれています。通常の内膜症と異なり、腸管・尿管・神経などの損傷が起きやすい難易度の高い手術になります。しかし、手術時に病変を残すと、性交痛や排便痛は改善されません。当院では高精度な内視鏡を用い、腸管を分離し、神経を温存して病変を切除する術式を行っています。またその術式を学会や論文で発表しています。
強い骨盤痛、性交痛、排便痛などで不妊症の方や薬が無効な方はご相談ください。
帝王切開後の月経異常と不妊(帝王切開瘢痕症候群)
1 はじめに
帝王切開が原因で月経が長くなることは1995年ごろから指摘されていましたが、2003年頃から不妊症の原因として考えられるようになりました。
2 当院の実績
2008年に国内で初めて帝王切開瘢痕部出血による不妊症に対し内視鏡手術を行いました。瘢痕部の病態によっては腹腔鏡、子宮鏡どちらかの手術もしくは二つの組み合わせが可能であり、同一施設で初めて組み合わせて行いました。症例を積み重ねて2つある術式の選択基準を初めて発表することが出来ました。帝王切開瘢痕部を詳細に観察し術前術後の月経を比較することで、帝王切開後の過長月経の原因が瘢痕部の出血で、ホルモンの影響を受けることを初めて示しました。現在まで他県からも問い合わせ・ご紹介をいただき、国内最多の150人に対し治療を行っています。
3 特徴的な症状
子宮にできた凹みに血液がたまることによりいくつかの症状が出てきます(図1)。
1) 長い月経 たまった血液が徐々に腟に出てくるため、通常の月経が一旦終了した後に黒褐色の血液が排卵まで数日続く。
2) 月経痛 月経血の排出障害。
3) 不妊 血液が子宮の中に貯留し不妊症になります。
4 診断
帝王切開後に子宮にできる凹みはしばしば見られ、きちんと検査を行えば帝王切開後の60%にあると言われています。したがって凹みがあるからといって、全ての人に症状があるわけではありません。超音波検査で疑うことは可能ですが、出血は月経周期の特定な時期にしか観察されず、毎月見えるとは限らないため診断が困難です。私たちの施設では子宮ファイバースコープやMRIを併用し診断しています。図2は腟側から子宮にスコープを挿入して凹みや血液の貯まりを確認しています。検査はすべて外来通院で行います。
5 治療
・手術は子宮鏡単独(図3)または腹腔鏡手術(図4)を行っています。
・手術では瘢痕部を切除します。
・腹腔鏡下手術では薄くなった子宮の修復も行います。
・手術方法の選択は外来検査で判断します。
・子宮鏡手術は3日、腹腔鏡手術は6日の入院です。
・手術後1年以内の妊娠率は64%です。
*図3,4は当院論文 New diagnostic criteria and operative strategy for cesarean scar syndrome: Endoscopic repair for secondary infertility caused by cesarean scar defect. J Obstet Gynaecol Res 41. 1363-1369, 2015 引用
6 まとめ
すでにお子さんがいらっしゃるため、患者さん自身も不妊症として病院を受診するまでの期間が長くなりがちです(潜在性不妊)。病気として認識していないと診断が困難なため、想像以上にこの病気で悩まれている方は多いかもしれません。帝王切開後になかなか2人目が妊娠できない、月経が長くなったという方は検査が必要と思われます。
当院受診希望の方は平日午後に産婦人科外来へ電話でお問い合わせください。
骨盤臓器脱
骨盤臓器脱は従来子宮脱や性器脱と呼ばれていた病気で、骨盤内臓である子宮や膀胱、直腸が腟内に下がってくる状態を言います。過去に子宮を摘出された方でも起こります。 治療には腟内に器具を挿入する保存的な方法と手術があり、相談して決定します。
当院の特徴
腹腔鏡手術を応用し富山県で初めて腹腔鏡下仙骨腟固定術を行いました。本手術は2014年に保険収載された最新の腹腔鏡下メッシュ手術で、再発の少ない手術術式として世界で認められており、子宮全摘は不要で術創部痛も少なく腟の形を元通りに修復可能です。
腹腔鏡手術のメリットを生かし傷が小さく痛みも少なく入院期間も6日程度で済みます。学会・論文発表を多数行い、当院での術式工夫を手術教科書に一部執筆提供しており、安全で確実な手技を提案しています。また通常の術式よりさらに繊細なフランス式手技も行っています。
上記以外にも多彩な手術が選択可能で、症例に応じて検討し選択しています。
・当院で行っている手技一覧
腹腔鏡手術 : 仙棘靭帯固定術/マックコール手術
腟式手術 : 腟式子宮全摘術/会陰形成術/肛門挙筋縫縮術/腟壁形成術
マンチェスター手術(子宮を一部切除)/TVM手術
当院での治療方針
当院では患者さんの骨盤臓器の状態や年齢、生活環境、希望を考慮して多彩な治療方法を提案しています。また、排尿機能については泌尿器科と連携して治療にあたります。
下垂症状などでお悩みの方はお気軽にご相談下さい。
不妊治療について
富山県内でも不妊専門クリニックが開業される中で、合併症をもっている方などへの対応もあり、年間100例くらいの採卵を行っています。一般的な体外受精から、顕微受精、胚の凍結融解なども行っています。原則的に単一胚移植を行っており、多胎の予防に努めています。自己注射の指導なども希望のある方を対象に行い通院の負担軽減にも配慮しています。専門の胚培養師がいないため、ある程度症例数の制限は行った中での施行にはなりますが、今後も妊娠率の向上に向けて努力していきます。
ARTの手技について
IVF – ET(体外受精-胚移植)
採卵した卵子を体外で受精させ、分割胚を子宮内に移植する方法です。採卵後2-3日目で移植したり、5-6日目まで培養を続けて胞胚期になった胚を移植したりすることもできます。また形態良好な受精卵が余った場合は、受精卵の凍結保存も可能で、次回妊娠時に融解胚移植も対応しています。
顕微授精:ICSI(卵細胞質内精子注入法)
射出精液中の精子数が少ない場合、運動精子が少なく通常の体外受精では受精が困難な場合、運動精子数は十分でも過去の体外受精で受精率が低い場合、無精子症で睾丸から精子を採取した場合などに行なう方法です。顕微鏡で見ながら1匹の精子を卵子の細胞の中に注入する方法です。受精率は75-80%くらいです。
ET(胚移植)
受精卵を子宮に戻すことをいいます。妊娠率をあげるためには、子宮の中に確実に移植する必要があります。
(1)2日目、3日目移植:採卵後2-3日目に受精卵が4~8分割の状態で移植します。(図2)
(2)胞胚期移植:採卵後5-6日目に受精卵の分割が進行して胞胚期(図3)になった時点で移植します。妊娠率は高いのですが、胞胚期まで発育してくるのは分割胚3-4個に1個位の割合です。