富山県立中央病院

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お知らせ

モニター視での完全鏡視下手術

2023/08/24

 ホームページ等を見ますと、多くの施設で「胸腔鏡下手術」を行っていると喧伝しております。これらのうち実際には胸腔鏡を補助的に用い6~10cm程度の小さな開胸創から覗き込んで行う胸腔鏡『補助下』手術のことを呼んでいることがあります。これを直視下手術と呼びます。これに対して胸の中を直接見ることなくモニターでの視野のみで行う手術を一般的には「完全鏡視下手術」と呼びます。
僅かの違いにも思われるでしょうが、一体この二つはどんな違いがあるのでしょう。
通常の開胸手術/完全鏡視下手術

 完全鏡視下手術においては下記のような長所があります。

  • より精緻な操作が可能
    肉眼で見る手術に比べて拡大した視野となるので、細い血管やリンパ節などの構造物が確認しやすくなり、より細かな手術が可能です。
  • 痛みが少ない
    肋骨と肋骨の間を開く「開胸器」を用いないので、肋間神経への影響が少なく痛みがより少ない手術となります。
  • チーム力が発揮できる
    執刀医と同じモニターを見るため、助手の医師や看護師・麻酔科医師も胸腔内の同じ情報を共有できるため、病院としてのチーム力の発揮できるより安全な手術となります。

呼吸器外科photo

 また少し専門的な話になりますが、完全鏡視下手術は従来の開胸手術のキズをただ小さくしただけ手術ではありません。

 通常、肺の手術は患者さんの体を横向きにして行います。直視下手術では肺を体の横から見て手術を行いますから、外側から重要な構造物を『掘り下げてゆく』手順になります。一方、完全鏡視下手術では肺を足側から見て手術を行いますが、この際には掘り下げるのではなく『トンネルを掘り進む』手順となります。このため直視下手術とは考え方が異なる点があり、これまでの直視下手術ではできなかった経路にて重要構造物へのアプローチが行えます。肺の解剖への理解や考え方も直視下手術とは大きく異なってくるため、ただキズを小さくした手術とは我々は考えていません。

 安全性についても十分な配慮をしています。
不測の出血や予想外の病気の進展により手術中に緊急的な開胸への変更「コンバート」が必要な場合でも、前胸部側の3-4cmの鏡視下用の傷を10-15cmに延長すれば、容易に開胸手術を行うことができます。従って新たな傷を増やすことなくコンバートすることが可能です。また当院では「完全鏡視下」に手術を行うよりも、安全・確実に手術を完遂することが最も重要と考えますので、必要に応じ躊躇することなく速やかに開胸へコンバートしています。
このように安全性についても十分な担保がなされていますのでご安心ください。

※2022年度の実績では、肺悪性腫瘍に対する手術147件の内訳は、完全鏡視下手術142件(96.6%)、開胸4件、癌の浸潤により左房合併切除が必要と判断し鏡視下手術から開胸へのコンバートを要した1件(0.68%)でした。

 もちろん良い事ずくめではありません。
立体感のない二次元のモニター画面をもとに長い器具を用いるという手術術操作自体には訓練も必要であり、より難しい手術ということもできます。このため十分な技量を有するスタッフが2名以上手術に従事することが必要とされています。
また病状の進行した症例や気管支形成などの非常に複雑な操作を伴う手術には不向きです。

 このため当院では 完全鏡視下手術の特性(長所・短所)を十分に理解した上で、患者さんの病状を一番に考え「患者さん本人のためになる手術」を選択しています。

 近年ロボット支援下手術が国内でも増加傾向であり、各施設から報告が上がり始めています。今後、癌の根治性や安全性、関連器具の開発等、「患者さん本人のためになる手術」が提供できると判断した場合は当科での導入も検討します。

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