富山県立中央病院

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卒後臨床研修評価機構 (JCEP)認定

日本医療機能評価機構認定証

人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関する基本指針

概要

 医療現場では長らく,人生の最終段階における医療の在り方が議論されてきた。そこには,治療の開始・不開始・中止の選択や,過剰な延命治療に対する疑問,心肺蘇生の不実施(DNAR;do not attempt resuscitation)等,さまざまな問題が含まれる。さらに,今や人生の最終段階への対応は,病院で提供される治療の問題だけにとどまらない。院内外の医療資源を効果的かつ効率的に用いることで,身体的ケアに加え精神的ケアや社会的ケア,スピリチュアルケアをも含めたトータルケアを提供できる体制を充実させる必要がある。そこで,本人の意思を尊重し,人生の最終段階を穏やかに,かつその人らしく全うするためのトータルケアを実現するプロセスを示すため,当院の基本指針を策定する。
 この基本指針は,「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン(厚生労働省;平成30年3月改定)」を規範として準拠する。

人生の最終段階とは

 人生の最終段階には,がんの末期のように予後が数日から長くとも2-3ヶ月間と予測できる場合,慢性疾患の急性増悪を繰り返し予後不良に陥る場合,脳血管疾患の後遺症や老衰など数ヶ月から数年をかけ死を迎える場合等がある。どのような状態が人生の最終段階かは,本人の状態を踏まえて,多専門職種の医療従事者から構成される医療・ケアチームが十分に協議して,総合的に判断することが求められる。

アドバンスケアプランニングとは

 アドバンスケアプランニング(ACP;Advance Care Planning)とは,「将来の変化に備え,将来の医療及びケアについて,本人を主体に,そのご家族や近しい人,医療・ケアチームが,繰り返し話し合いを行い,本人の意思決定を支援する取り組み」である(日本医師会;2023年)。
 ケアの在り方や意思決定の支援・手続きについては,下記のとおりとする。

人生の最終段階における医療およびケアの在り方

 ①人生の最終段階における医療を進める上で,医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされ,それに基づいて本人が医療従事者と十分に話し合いを行い,その結果として導き出された「本人による決定」が,もっとも重要な基本方針となる。
 ②医療・ケアの開始・不開始,内容の変更及び中止等は,医学的妥当性と適切性を根拠に,慎重な判断を行わなければならない。そこで,多専門職種からなる医療・ケアチームを組織し,検討を行うことが求められる。
 ③医療・ケアチームのスタッフが協力し合い,それぞれの専門性を生かして,可能な限り疼痛やその他の不快な症状を十分に緩和し,本人・家族等の精神的・社会的な援助も含めた総合的な医療及びケアを行うことが必要である。
 ④生命を短縮させる意図をもつ積極的安楽死は,現在,日本では認められておらず,当院では一切これを行わない。

人生の最終段階における医療及びケアの方針の決定手続き

 人生の最終段階における医療及びケアの方針決定は次によるものとする。

    (1)本人の意思が確認できる場合
    ①方針の決定に際し,本人の状態に応じた専門的な医学的検討を経て,医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされることが必要である。その上で, 本人と医療従事者が合意形成に向けて十分な話し合いを行い,本人の意思に基づき方針の決定を行う。
    ②時間の経過や病状の変化,医学的評価の変更等に応じて本人の意思は変化しうる。そこで,その都度,適切な情報の提供と説明を行い,意思の確認を行うことが必要である。病状の進行により判断力が低下している場合等においては,本人が自らの意思を示せる,あるいは伝えることができるように,意思決定のプロセスを支援することも重要である。患者本人の選択が,専門的な医学的妥当性・適切性の判断と一致することが望ましい。また,本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性を考慮し,家族等も含めて話し合いを行う必要がある。その際,本人が特定の家族等を自らの意思を推定する者として,前もって定めておくことも重要である。
    ③このプロセスにおいて話し合った内容は,その都度,文書にまとめておくものとする。
    (2)本人の意思が確認できない場合
    本人の意思確認ができない場合には,次のような手順により,慎重な判断を行う必要がある。
    ①家族等が本人の意思を推定できる場合には,その推定意思を尊重し,本人にとって最善の方針をとることを基本とする。
    ②家族等が本人の意思を推定できない場合には,本人にとって何が最善であるかについて,本人に代わる者として家族等と十分に話し合い,本人にとって最善の方針をとることを基本とする。時間の経過,心身の状態の変化,医学的評価の変更等に応じて,このプロセスを繰り返し行う。
    ③家族等がいない場合及び家族等が判断を医療・ケアチームに委ねる場合には,本人にとって最善の方針をとることを基本とする。
    ④このプロセスにおいて話し合った内容は,その都度,文書にまとめておくものとする。
    (3)複数の専門家からなる委員会の設置
    上記(1)及び(2)の場合において,方針の決定に際し,
    ・医療・ケアチームの中で心身の状態等により医療・ケアの内容の決定が困難な場合
    ・本人との話し合いの中で,妥当で適切な医療・ケアの内容についての合意が得られない場合
    ・家族等の中で意見がまとまらない場合や,医療・ケアチームとの話し合いの中で,妥当で適切な医療・ケアの内容についての合意が得られない場合
    等については,複数の専門家からなる話し合いの場を別途設置し,医療・ケアチーム以外の者を加えて,方針等についての検討及び助言を行うことが必要である。
    当院においては,倫理委員会臨床倫理部会がその役割を担う。

終末期の鎮静

 終末期に耐え難い苦痛が生じ,患者・家族が鎮静を希望した場合は次のとおりとする。

    (1)がんの場合
    ・日本緩和医療学会による「がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き(2023年版)」に従い,適切な対応を行う。
    ・医療・ケアチームによる多職種カンファレンスには,緩和ケア医を含むことが望ましい。
    (2)非がん性疾患の場合
    ・各疾患のガイドラインに従い,適切な対応を行う。
    ・各疾患のガイドラインにおいて十分な指針が示されていない場合は,日本緩和医療学会による「がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き(2023年版)」を準用する。
    ・医療・ケアチームによる多職種カンファレンスには,緩和ケア医を含むことが望ましい。
    ・非がん性疾患においては,原疾患の治療経過と回復可能性を再評価し,鎮静継続の適否を繰り返し検討すること。

    院内体制: 支援の記録と教育

      (1)支援の記録
      ・患者への説明及び意思決定支援の記録は,当院の「インフォームド・コンセントに関するガイドライン」に従う。
      ・患者本人の意思(意思表示ができない場合は推定意思),人生の最終段階として考えられる治療の選択肢や最善の治療についての検討内容,及び検討した医療・ケアチームの構成員を診療録に記載する。
      ・病状や治療の説明に関する意思確認書や入院前における療養支援計画、病状説明(治療方針等)テンプレートを利用,または参考にすること。
      (2)教育
      職員は臨床倫理や緩和ケアに関する研修会などを受講する。
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