富山県立中央病院

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お知らせ

ステントグラフト内挿術 ~大動脈瘤の新しい治療法~

2018/01/09

「大動脈瘤」という病気をご存じでしょうか?心臓から送り出された血液が身体の隅々へと流れてゆく、その通り道になる血管を「動脈」と言いますが、体内で最も太い、幹となる動脈を「大動脈」と言います(図1)。この大動脈の壁の一部が瘤のように膨らんでしまった状態を「大動脈瘤」と言います(図2)。基本的に大動脈瘤は無症状で経過しますが、徐々に大きくなるにつれて破裂を起こす危険性が出てきます。破裂してしまうと致命的で、救命は困難です。したがって、破裂する前に時機を見て手術を行う必要があります。
図1
図2

 大動脈瘤の根本的な治療は「人工血管置換手術」という手術になります。この手術は胸やお腹を大きく切り開いて行われ、場合によっては「人工心肺装置」を使用して御身体を一度「仮死状態」にして行われるため(超低体温循環停止法と言います)、身体への負担が非常に大きく、長期の入院が必要となってしまう場合も少なくありませんでした。特に御高齢の方や元々御身体の弱っておられる方の場合、手術を契機に御身体に大きな障害を負ってしまう方や、手術後に残念ながら亡くなってしまう方もおられました。

 そこで近年、大動脈瘤の新しい治療法として注目を浴びているのが、「ステントグラフト内挿術」です(図3)。この手術は足の付け根を数センチ切開し、太い動脈を露出させるだけで施行可能です。その露出した血管から細い筒(シース)を大動脈瘤の中まで挿入します。シースの中には「ステントグラフト」と呼ばれる、人工血管に金属製のバネのような骨組みが縫いつけられたものが折りたたまれた状態で入っています(図4)。このステントグラフトを瘤の内側で拡張させることで、大動脈瘤を内側から塞いでしまいます。従来の手術と比べて胸やお腹を切らずに治療ができるため、身体への負担が格段に少なくて済むという大きな利点があります。それに対して欠点を挙げるとすれば、内側からを塞いだにも関わらず大動脈瘤が再び拡大し追加治療(ステントグラフトの追加やカテーテルによる血管内治療)が必要となるケースや、結局人工血管置換手術となるケースがある点です(約2-5%)。また、この治療は新しい治療法であるため、長期的な成績についてはまだ確立したとは言えないという点も欠点の1つに挙げられるかもしれません。しかし最近欧米からは従来の人工血管置換手術に比べて遜色ない良好な長期成績が報告され始めており、今後本邦でも同等以上の成績が出てくるものと予想されています。大動脈瘤の形状や位置によっては、このステントグラフト手術では治療できない場合も少なくありませんが、ステントグラフト自体の性能や技術は年々進歩しており、これまではステントグラフトでは治療できなかったタイプの動脈瘤でも治療可能となって来ています。
図3
図4

 当院では金沢大学放射線科の御協力の下、1999年に富山県では初となるステントグラフト内挿術を成功させました。その後、同年にもう1例、2000年に2例の内挿術を成功させ、その実績を基に2009年より企業製ステントグラフトを使用したステントグラフト内挿術を開始、これまでに合計300例を超える手術を行ってきました(表1)。また2011年8月には東京女子医科大学心臓血管外科に御協力いただき、従来のステントグラフトでは治療できなかった形状の弓部大動脈瘤についても治療可能な「Najutaステントグラフト」を北陸地方で初めて導入し、現在も症例を重ねております。このNajutaステントグラフトを含め、現在当科では日本国内で使用可能な企業製ステントグラフトは全て使用可能となっており、患者さんお一人お一人に合わせた最適な治療を提供できる態勢を整えております。また、2014年より動脈瘤が破裂しかけている方(切迫破裂)、すでに破裂している方への緊急ステントグラフト内挿術も可能となりました。

<表1>

  腹部大動脈瘤 胸部大動脈瘤 合  計
1999年 1例 1例 2例
2000年 1例 1例 2例
2009年 2例 1例 3例
2010年 8例 5例 13例
2011年 13例 6例 19例
2012年 27例 6例 33例
2013年 13例 16例 29例
2014年 31(2)例 21(5)例 52(7)例
2015年 40(6)例 31(3)例 71(9)例
2016年 46(3)例 33(7)例 79(10)例
2017年 41(1)例 27(1)例 68(2)例
合 計 223(12)例 148(16)例 371(28)例

数字はステントグラフト手術件数、( )内は緊急手術数

 以下のCTスキャン画像は、実際に胸部大動脈瘤に対してステントグラフト内挿術を行った症例のものです。前述のNajutaステントグラフトを使用しました。治療前の画像では大きな胸部大動脈瘤が映し出されているのに対して、治療後の画像では大動脈瘤が映らなくなっています。同様の胸部大動脈瘤に対して従来の人工血管置換手術を行った場合、手術死亡率+重篤な合併症発生率は10%前後、手術時間は6-12時間、入院日数は1ヶ月を超えることも珍しくありませんでしたが、ステントグラフト手術の場合、手術死亡率+重篤な合併症発生率は2-3%、手術時間は1-3時間程度、入院も1週間程度で済む方がほとんどです。
治療前/治療後

 続いてのCTスキャン画像は、実際に腹部大動脈瘤に対してステントグラフト手術を行った症例のものです。胸部のものと同様に、治療前の画像では大きな腹部大動脈瘤が映し出されているのに対して、治療後の画像では大動脈瘤は映らなくなっています。同様の腹部大動脈瘤に対して、従来の人工血管置換手術を行った場合、手術死亡率+重篤な合併症発生率は2-3%、手術時間は3-6時間、入院日数は2-3週間を要することが多いですが、ステントグラフト手術の場合、手術死亡率+重篤な合併症発生率は1-2%、手術時間は2-3時間程度、入院は5-7日間で済む方がほとんどです。
治療前/治療後

 検診や医師の診察で大動脈瘤と診断された方、大動脈瘤の疑いがあると言われた方、大動脈瘤やステントグラフト内挿術についてさらに詳しくお知りになりたい方は当院心臓血管外科外来までお問い合わせ下さい。
 また、下記ホームページでも大動脈瘤やステントグラフト内挿術について詳しく紹介されています。このホームページは、ステントグラフト治療に関連する10学会が合同で運営する管理委員会のもので、大動脈瘤の基本的な知識から治療の詳細まで、非常にわかりやすい内容となっております。ぜひ御参照ください。

日本ステントグラフト実施基準管理委員会

<参考資料>
QLife Books 医療ライブラリ「大動脈瘤の診断と治療」
監修:東京女子医科大学 心臓血管外科 東隆

(文責 外川正海)

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