富山県立中央病院

文字の
サイズ

  • 文字を大きくする
  • 文字を小さくする

お知らせ

内科(内分泌・代謝)-Q&A

2016/03/17

Q1.先日初めて糖尿病と診断されました。栄養士さんから食事指導を受けたとき、脂質を含め、カロリーの取りすぎに注意するように言われました。糖尿病は血糖値が上昇する病気とのことですがどうして油分を取りすぎるといけないのでしょうか?

A. 糖質も脂質も「ヒト」が生きていくうえで必要不可欠な栄養素であり、エネルギー源です。このふたつは体内でまったく別々に利用されているのではありません。
糖質と脂質は共に細胞内の『ミトコンドリア』と呼ばれる場所で燃焼してエネルギーになります。このため、体内に脂質が過剰に蓄積した状態では、エネルギー過剰からミトコンドリアでの糖質の燃焼や細胞内への糖質の輸送にブレーキがかかると言われ、その結果血糖値が上昇しやすくなるわけです。特に、肥満を合併した糖尿病の方は、体重を減量することで見違えるほど血糖コントロールが改善することがよくあります。血糖を良好にコントロールするには、糖分制限のみならず脂質を含んだカロリーをコントロールし体重を適正に保つことが重要です。

Q2.特殊な別の病気のせいで糖尿病がでてくるということはないのでしょうか?

A. 糖尿病が、特殊な血糖を上昇させる疾患によって発症する場合があります。このような糖尿病を『二次性糖尿病』と言います。『二次性糖尿病』を起こす疾患として、膵癌、慢性膵炎などの『膵疾患』、慢性肝炎や肝硬変などの『肝疾患』、褐色細胞腫、クッシング症候群、原発性アルドステロン症などの『内分泌疾患』、重篤な『感染症』などが挙げられます。このなかでも特に見逃されやすいのはホルモンの病気である『内分泌疾患』です。『内分泌疾患』による糖尿病では、多くの場合血糖や血圧を上昇させるようなホルモンが体内で過剰になっているとされています。したがって、原因となるホルモンの病気をしっかり治療しないと、生活習慣の是正だけでは血糖コントロールが改善しないことが多いのです。逆に、ホルモンの病気を治療することで『二次性糖尿病』が治癒してしまうことがあります。
『糖尿病』と診断する際に、『二次性糖尿病』の原因となる疾患、特に『内分泌疾患』が隠れていないかをしっかり鑑別していく必要があります。『内分泌疾患』等の原因となる疾患がない場合に初めて、本当の『糖尿病』という診断になります。本当の『糖尿病』であれば、残念ながら治癒してしまうことはありませんので、病気とつきあっていくことが必要になります。
なお、ホルモンの病気は特殊で稀な疾患ですので、『内分泌疾患』が疑われる際には内分泌専門医のいる病院で精査加療を受けることが必要な場合があります。

Q3.検診で脂質異常症と指摘されました。自覚症状がないので医療機関へは受診していません。やはり、受診した方がよいのでしょうか?

A. 以前は、脂質異常症ではなく、高脂血症とよばれていた病気です。LDLコレステロール、トリグリセライドの値が高いと冠動脈疾患のリスクは高くなります。しかし、HDLコレステロールの値が低くなっても、冠動脈疾患のリスクが高くなるため、現在では、高脂血症ではなく脂質異常症とよばれるようになりました。2007年日本動脈硬化学会が提示した脂質異常症の診断基準によるとLDLコレステロール140mg/dl以上が高LDLコレステロール血症、HDLコレステロール40mg/dl未満は低HDLコレステロール血症、トリグリセライド150mg/dl以上が高トリグリセライド血症と診断されます。この基準値は、低HDLコレステロール血症はHDLコレステロールが40未満と40以上では40未満のほうが、冠動脈疾患の相対危険率が2倍以上、トリグリセライドも150以上とそれ以下の比較では150以上のほうが、冠動脈疾患の相対危険率が1.5倍以上、血清コレステロール200mg/dlに比べ、220mg/dlの時は冠動脈疾患の相対危険率が1.5倍、240mg/dlの時は2倍になることが明らかとなったことを根拠に設定されています。日本動脈硬化学会の提示した診断基準と治療指針は患者さんが持っている狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患の危険因子(加齢、喫煙、低HDL血症、冠動脈疾患の家族歴、耐糖能障害)の有無により治療目標値が異なります。検診で発見される脂質異常症の多くは食事療法により改善が期待できますが、中には遺伝的に血清コレステロール、トリグリセライド値が高くなりやすい家系で、冠動脈疾患を発症しやすい家族性高脂血症や、甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群など他の疾患が原因で発症する二次性高脂血症も考えられます。脂質異常症はそれ自体に自覚症状はありませんが、治療目的は、心筋梗塞などの合併症の予防にあります。まずは、医療機関を受診されて御自分の病態を明らかにされた上で適切な治療を受けましょう。

Q4.糖尿病で血糖管理が不良の場合、手術などの治療が受けられないことがありますがそれはなぜですか?

A.糖尿病で血糖コントロール不良が持続していると全身にさまざまな臓器障害が及んでいる可能性があり、手術前後に思わぬ併発症を伴うことがあります。また血糖コントロールが悪いまま手術をすると感染症を起こしたり、傷が治りにくく(創傷治癒遅延・縫合不全)なるなどで入院が長引くことが少なくありません。したがって緊急の場合以外は全身状態をよく検査し糖尿病による合併症の程度を調べ、血糖の状態を良くしてから手術に臨むことが望まれます。
当院は手術目的の患者さんがたくさんいらっしゃいますが、血糖コントロール不良のためやむを得ず手術が延期になることもしばしばあります。日頃から良好な血糖を維持しておくことが大切ですね。

Q5.糖尿病ですが医師よりインスリン自己注射が必要と言われました。そんなに悪いのかとショックでした。インスリンは一生続けなければなりませんか?

A. 糖尿病でも合併症がなければ体は一見、健康です。しかし血糖を良好に保っておかないと種々の合併症がでやすいのも確かです。通常食事・運動療法で血糖コントロールが悪い方は薬物療法の適応となります。どの薬物を処方するかはお一人お一人の病態により異なります。インスリン自己注射が必要であっても糖尿病の重症度とは全く関係がありません。当院にはインスリン注射をしていても、合併症が全くなく元気な方がたくさん通院されています。また血糖コントロール不良のため一時的に膵臓からのインスリンの分泌が低下したり、末梢組織でのインスリンの効果が低下している場合もあり、短期間のインスリン注射によりまた飲み薬や食事療法に戻ることもあります(糖毒性の軽減)。

Q6.バセドウ病で加療中です。結婚を控えていますが、妊娠しても大丈夫ですか?

A.バセドウ病の患者さんでも妊娠は可能ですが、妊娠前から出産後まで、それぞれの時期に合わせたフォローアップが、お母さんにも赤ちゃんにも大切です。治療は抗甲状腺薬が主体となります。バセドウ病は、妊娠初期に悪化し、中期から後期にいったん軽快して、出産後には増悪する傾向にありますので、治療薬はそれぞれの時期に合わせて増減が必要になってきます。 甲状腺機能亢進状態が放置されていると、胎児奇形や流早産、妊娠高血圧症、胎児発育不全の合併が多くなります。お母さんの体ではうっ血性心不全が生じることや、甲状腺クリーゼから最悪の場合には死に至ることもあります。
また、バセドウ病患者さんでみられるTSH受容体抗体は、胎盤を通って赤ちゃんの甲状腺も刺激します。一方で抗甲状腺薬も胎盤を通過するので、赤ちゃんの甲状腺機能はこれらの相互作用によって決まります。現在、抗甲状腺薬が赤ちゃんに与える影響の調査が行われており(POEM study)、妊娠初期にメルカゾール内服をしていた方の一部で臍腸管遺残や臍帯ヘルニアの合併がみられたことより、妊娠初期にメルカゾール内服をできるだけ避けるように計画妊娠することが勧められています。なお、妊娠初期以外は先天異常との関連は言われていませんので、副作用や治療効果の点からプロパジールよりメルカゾールが勧められています。若い女性でバセドウ病の方は早い段階で正しい知識を持っていただくことが大切です。内分泌・代謝科専門医を受診しましょう。

Q7.妊娠中は糖尿病になりやすいと聞きました。どうしてですか?また、どのように診断されるのでしょうか?

A.妊娠中は胎盤で作られるhPLなどのホルモンの影響によりお母さんの血糖値は上昇します。これはどのお母さんにも見られる生理的な仕組みですが、インスリンの量が不十分であったり、インスリン抵抗性が強すぎたりすると、取り込まれないブドウ糖が血液中に溢れかえり、高血糖となってしまいます。これは、まさに糖尿病の人と同じ状態です。妊娠前には糖尿病と診断されていなかった人で、妊娠して初めて糖代謝の異常が見つかった場合、「妊娠糖尿病」と診断されます。妊娠糖尿病の診断は2段階で行われます。まず、全てのお母さんを対象に、妊娠初期と妊娠中期の妊婦健診で、血糖値を測定し、そこで疑いのある方には精密検査を行います。精密検査は他にも、妊娠糖尿病になりやすいリスクのある人(尿糖陽性、肥満、過度の体重増加、巨大児を出産の既往、糖尿病の家族歴など)にも行います。この検査はブドウ糖水を飲む検査で、ブドウ糖の処理能力をみます。この際に、空腹時血糖値≧92mg/dl、1時間値≧180mg/dl、2時間値≧153mg/dlのうち1つ以上を満たした場合に妊娠糖尿病と診断されます。赤ちゃんは胎盤を通してお母さんから酸素や栄養を得ていますので、お母さんの血糖管理は赤ちゃんの発育に影響しますので、厳格な血糖コントロールのための治療が必要となります。また出産後糖尿病状態がどうなったかを再評価しておくことも重要です。

Q8.35歳男性ですが、最近仕事をしていても疲れやすくなり、夕方ころになると集中力も低下することが毎日続いています。上司に相談すると、うつ病ではないかと心配されましたが、気持ちは特に落ち込んだり、不眠症があるわけでもありません。これは、何かの病気でしょうか?病院に行こうか迷っています。

A.『疲れやすい』『集中力が持たない』などの症状が起こりうる病気は、内科的疾患を含めたくさんあります。症状だけでは、疾患の特定はできませんが、『明らかに普通の元気な状態ではない』と感じる場合は、いくつかの検査を受けて、あてはまる病気がないかを詳しく調べる必要があります。今回の35歳男性の方のような、病院に行こうか迷う程度の症状であっても、『下垂体機能低下症』という病気である可能性が考えられます。下垂体とは、頭部のこめかみの奥あたりに位置する小指ほどの小さいホルモン産生臓器です。下垂体では、複数のホルモンを作っており、人体にとって必要不可欠な働きをしています。万一、下垂体のホルモンがなくなってしまったら、体がだるくなり、食欲もなくなり、体温も維持できず、意識もなくしてしまう可能性もあります。下垂体に起こる病気としては、生まれつきの先天的なホルモン欠損症、後天的な下垂体腫瘍、下垂体の炎症、交通外傷などの強い衝撃、出産時などの大量出血時に生じる一過性の虚血状態などが原因となり、その後、永続的にホルモン低下症になります。その際、体に生じる症状は低下するホルモンの種類によって異なりますが、従来は成人には必要ないと考えられていた成長ホルモンが、完全になくなってしまうと、今回の35歳男性の方のような疲れやすい、集中力が持続しないなどの症状になることがわかってきました。その場合は、成長ホルモンを少量だけ補充する治療がおこなわれるようになりましたが、ホルモン剤が非常に高価なため、保険が効いても毎月数万円の治療費がかかることが問題でした。その問題を解決するために、2009年に『下垂体機能低下症』をはじめ、いくつかの下垂体ホルモン異常の病気が特定疾患に認定されました。そのため、該当する疾患と診断され、治療が必要になった場合に、高額な治療費などを補助してもらえることになり、今後の治療への経済的な壁が解決されました。症状のあるすべての方が、下垂体機能低下症とは限らず、むしろ稀な疾患です。しかし、精密検査をしてみて初めて診断できるのも事実です。まずはかかりつけの先生に相談してみましょう。

お知らせ一覧へ戻る

ページトップに戻る