富山県立中央病院

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お知らせ

麻酔科 一般向けのお話

2020/07/17

1.喫煙と麻酔について

 喫煙による発癌性や呼吸・循環系に対する障害が注目されるようになり、近年禁煙運動が盛んに行われています。麻酔科では、一般には手術前数日間は禁煙していただいていますが、愛煙家にとって禁煙は苦痛であり、禁煙自体がストレスとなるかもしれません。今回は、喫煙が身体にどのような影響を及ぼし、禁煙期間はどれくらい必要なのかについて少しお話します。

1.心血管系に対して

 喫煙により吸入する煙の中には1~5%の一酸化炭素(CO)が含まれています。血中COが増加すると、心臓の収縮力が弱くなったり、運動負荷時に心筋への血流が増加せず、狭心症発作を引き起したりします。COは赤血球のヘモグロビンとの結合力が酸素の200倍も強く、血中COが増加すると相対的に酸素が足りなくなり、脳や心臓など身体の重要臓器が低酸素状態となります。そのため、代償的に赤血球数が多くなり血液の粘度が上がります。血液が粘稠になると心臓にも負担がかかり、身体の隅々への血流にも悪影響を与えます。また、喫煙により血小板の寿命が短くなり凝縮が生じ、動脈血栓症の発生率も高くなります。さらには、煙草にはニコチンが含まれていますが、ニコチンは交感神経を興奮させ、心拍数の上昇、血圧の上昇などにより心臓に負担をかけます。このCOの増加や血液の粘度の上昇、ニコチンの血中濃度の上昇は2~3日の禁煙で低下するので、術前の禁煙は心血管系に関して有効と考えられます。

2.呼吸器系に対して

 気管支表面には繊毛細胞があり、この繊毛運動により肺に入ってきた異物は喀痰として外に出されます。喫煙により繊毛運動は抑制され、肺内に溜った喀痰を出せなくなります。これにより末梢気道は閉塞し、体への酸素の取り込みが低下し、手術中に低酸素による障害が出る危険性もあります。この繊毛運動活動が復活するまでには少なくとも6週間以上必要と考えられます。また、末梢気道の閉塞が改善するには約6ヶ月間必要といわれています。短期間の禁煙は喀痰が増加するにもかかわらず胸部が堅くなり喀痰排出が困難になることがあり、逆に有害であるという意見もあります。このように呼吸器系に対する影響が改善するには心血管系への影響の改善に比べて長期間を要します。

3.免疫系への影響

 喫煙は、白血球増加、免疫グロブリンの減少、など免疫能を抑制します。術後の創部感染や、肺炎などの感染症のリスクが高くなります。また、免疫能の低下は癌の進行や転移にも影響を及ぼす可能性があります。免疫能の回復には約6週間必要といわれています。

4.まとめ

 以上、喫煙が身体に及ぼす影響について簡単に説明しました。心血管系に対する影響は、数日の禁煙で回復しますが、呼吸器系や免疫能に対する影響は、6週間以上必要です。現在健康な皆さんも、急病や事故で急に手術を受ける可能性があります。手術中に低酸素状態となり脳や心臓などの重要臓器に悪影響を及ぼさないためにも禁煙について考えてみませんか。

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