富山県立中央病院

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放射線治療科

概要

 放射線治療専従常勤医(放射線治療専門医)2名、医学物理士2名、放射線治療担当技師5名、放射線治療品質管理士4名、放射線治療担当看護師2名(内1名はがん放射線療法看護認定看護師)、受付1名のスタッフ体制で放射線治療業務に当たっております。
 治療機種はVarian社製 TrueBeamが1台、TrueBeam STXが1台、Nucletron社製microSelectronが1台です。True Beam STxには島津社製のSyncTraxという動体追跡システムも配備しております。

当院の放射線治療の特徴

 当院は県民のがん治療を担う代表施設として、一つの都道府県に対し原則一施設だけ指定される、都道府県がん診療連携拠点病院の指定を受けております。該当施設の放射線治療部門として相応しい放射線治療が出来るように、常に全国最前線レベルの放射線治療を視野に入れ診療しております。

 高精度放射線治療の一つであるIMRT(強度変調放射線治療)は2008年より頭頸部腫瘍、前立腺腫瘍および中枢神経腫瘍に対して保険適用となりました。当院ではまず前立腺癌に対して2008年8月から富山県で最初に治療を始めました。2023年7月時点で838名の患者さんに治療を受けていただき良好な結果が出ております。更に高度な専門的知識が必要となる頭頸部腫瘍に対しても2011年4月よりIMRTによる治療を開始し、2023年7月時点で341名の頭頸部腫瘍の患者さんに治療を受けていただいております。現在はIMRTの保険適応疾患が限局性固形悪性腫瘍に広がっておりますので、その他の部位に対しても利点が大きいと判断した場合には積極的にこの手法を採用しております。
 体幹部定位放射線治療も高精度放射線治療の一つであり、当院では肺疾患に対しては2010年より、肝疾患に対しては2011年より富山県で最初に治療を開始いたしました。体幹部病変に対する定位照射治療においては呼吸性移動対策が重要となりますが、幾つかある対策法の内、当院ではまずRPM(Real time Positioning Management system)という技術を用いて治療を開始いたしました。現在はその技術以外にもSyncTraXという装置を用いて動体追跡迎撃照射をすることが可能となり、診療の幅が広がっております。
 頭部疾患に対する定位放射線治療は当初は頭蓋骨を固定する方法を用いておりましたが、現在は侵襲の少ない歯形やプラスチック製のマスクによる固定で治療することが可能となっております。
 その他の一般的な放射線治療に関してもIGRT(画像誘導放射線治療)等の有用性の高い手法を積極的に用いて治療しております。
 子宮癌、腟癌などの婦人悪性疾患に対する放射線治療の際に必要となる遠隔操作密封小線源治療は富山県内では当院と富山大学附属病院のみで施行されています。当院では遠隔操作密封小線源治療に関しても2017年よりCTによる治療計画が可能となり、副作用発生低下に効果を上げております。また適応には慎重にならなければなりませんが、治療の際に永久人工肛門の造設が必要となる下部直腸癌症例に対して密封小線源治療を用いることにより、手術が回避できることもあります。
 悪性血液疾患の治療の際に必要となる全身照射も血液内科との協力のもと多数施行しております。
 また全国的にも数少ない看護師による面談やプライバシーに配慮した更衣室なども多くの患者さんの好評を得ております。
 尚、非密封小線源治療に関しては放射線診断科のラジオアイソトープ部門にて施行しております。

診療担当表

月曜日 火曜日 水曜日 木曜日 金曜日
放射線
治療初診
午前 豊嶋/髙 豊嶋/髙 豊嶋/髙 豊嶋/髙 豊嶋/髙
午後 豊嶋/髙 豊嶋/髙 豊嶋/髙 豊嶋/髙 豊嶋/髙
再診 午前 豊嶋/髙 豊嶋/髙 豊嶋/髙 豊嶋/髙 豊嶋/髙
午後 豊嶋/髙 豊嶋/髙 豊嶋/髙 豊嶋/髙 豊嶋/髙

医師紹介

医師名・職位 専門分野 資格
部長 豊嶋心一郎 部長
豊嶋 心一郎
(とよしま しんいちろう)
放射線治療 日本放射線腫瘍学会放射線治療専門医
日本医学放射線学会放射線治療専門医
日本がん治療認定医機構がん治療認定医
医学博士
副医長
高 将司
(たか まさし)
放射線治療
日本放射線腫瘍学会認定放射線治療専門医
日本医学放射線学会認定放射線科専門医

当科での診療について幾つか御紹介します。
① 動体追尾体幹部定位照射
② 強度変調回転照射(VMAT)
③ 寡分割照射
④ 脊椎定位照射
⑤ ハイドロゲルスペーサー留置
⑥ 強度変調回転照射による動体追尾体幹部定位照射
⑦ その他

① 動体追尾体幹部定位照射

 動体追跡体幹部定位照射は幾つかある体幹部定位照射法の中でも最も高精度に呼吸性移動対策が出来る治療法です。定位照射は小さな病変に対してピンポイントで大きな線量を照射する放射線治療なので、脳腫瘍の様な動きの無い病変に対する場合は絶対位置精度を高めることで治療可能となりますが、呼吸性移動など大きな動きを伴う体幹部病変に対して治療する場合には絶対位置精度以外に動きに対する対応も必要となります。動きに対する対応を行った場合に算定される、定位放射線治療呼吸性移動対策加算には動体追尾法(10,000点)とその他(5,000点)があります。当院で採用しているSyncTraXはより厳しい条件が必要となる前者を算定することが出来る、数少ない機種の中の一つです。動体追跡するには何れの機種でも原則、腫瘍近傍に金属マーカーを埋め込む必要があります(埋め込まない場合もありますが適応が限られます)。SyncTraXは埋め込んだ小さな金マーカーを透視画面上で最大毎秒30回の高頻度で自動追跡し、金マーカーが治療計画位置に来た時のみ照射する動体追跡迎撃照射システムです。体内マーカーを直接認識する方式なので極めてリアルタイムに腫瘍の位置を認識することが出来ます。当院に配置されたSyncTraXは全国で3番目の導入となる最新バージョンFX4であり最大5個の金マーカーを追跡できる等、非常に進化したものとなっております。あらかじめ金マーカーを留置しなければならないという欠点は有りますが、非常に正確に照射する事が出来るため、正常領域への不要な被曝が大幅に低減し、消化管近傍の肝病変など今までは治療困難であった症例でも治療可能となりました。
 保険点数解釈で保険請求できる体幹部定位照射対象疾患は当初は下記の疾患のみでしたが
・原発性肺癌(直径が5cm以内で、かつ転移のないもの)
・転移性肺癌(直径が5cm以内で、かつ3個以内で、かつ他病変のないもの)
・原発性肝癌(直径が5cm以内で、かつ転移のないもの)
・転移性肝癌(直径が5cm以内で、かつ3個以内で、かつ他病変のないもの)
・脊髄動静脈奇形(直径が5cm以内)
2020年4月時点では上記疾患に加えて
・転移病巣のない前立腺癌
・転移病巣のない膵癌
・原発性腎癌(直径が5cm以内で、かつ転移のないもの)              
・オリゴ転移(5個以内)
・転移性脊椎腫瘍(直径が5cm以内)
も保険診療適応疾患となっております。
 当院では肺病変に対しては4回(もしくは8回)、肝病変に関しては5回の照射で治療しております。1回辺りの治療時間はおおよそ1時間以内で早い場合には30分程度で済みます。痛みは無く外来通院にて治療できます。体幹部定位照射は手術に匹敵する治療成績の報告もあり、今後ますます発展していく治療法と思われます。また、金属マーカーの留置が出来ない場合でも、以前より当院で施行している金属マーカー留置の必要の無いRPM(Real time Positioning Management system)を用いた治療手技も進化していますので、適宜対応して治療させて頂きます。尚、当科では前立腺癌に対する定位放射線治療に関しては、長期成績の調査報告がまだ出ておらず、尿路障害のリスクが高い可能性が示唆されているので(がん・放射線療法 2017 秀潤社)、現時点では採用せず、次に御説明するVMATによる分割照射(通常もしくは寡分割)にて治療しております。

TrueBeam STx とSyncTrax FX4

赤矢印は金属マーカー透視のために床下に埋め込まれたX線管
青矢印はX線検出器(12インチFPD)


肺疾患定位放射線治療計画図



肺疾患に対する定位照射の際に使用する金属マーカー

直径1.5mmの金マーカーです。
肺腫瘍の近傍に気管支鏡を用いて4個留置いたします。
肝疾患の場合は直径2.0mmの金マーカー等を局所麻酔下で経皮的に肝腫瘍の近傍に1~2個留置いたします。


金マーカー追跡の透視画面

留置した金マーカーを最大毎秒30回の高頻度で自動追跡します。


② 強度変調回転照射(VMAT)

 強度変調回転照射VMAT(Volumetric Modulated Arc Therapy)は広義の強度変調放射線治療IMRT(Intensity modulated radiation therapy )の一つであり、狭義のIMRTが進化した治療法です。広義のIMRTとは通常の放射線治療がほぼ均一な放射線の強度の線束を用いて治療するのに対し、不均一に強度を変調した線束を用いる事により、照射したい標的への線量を担保しながら、標的に近接して存在する被曝させたくない領域への被曝線量を低減させる治療法です。狭義のIMRTはその中でも固定多門で照射するものを指します。VMATは放射線を出す装置(ガントリと言います)を回転させながら照射するIMRT(rotational IMRT)であります。超多門照射とも言えますが、単純に回転させているわけではなく、ガントリ回転中はその速度、線量率、照射野の形状を連続的に変化させるという非常に複雑な操作を行っております。そのような複雑な操作を行うことによりVMATは固定IMRTに比べて治療時間の大幅な短縮が可能となり、それに伴い被曝線量の軽減が得られ二次発癌発生の危険性も低下します。

前立腺癌に対する固定多門IMRT(7門)の計画(左)とVMAT(1アーク)の計画(右)

固定多門IMRT(7門)計画はMU値862MU、照射時間は約10分、
VMAT(1アーク)計画はMU値549MU、照射時間は約2分です。

③ 寡分割照射

 寡分割照射とは、ある疾患に対して通常行われる照射回数(乳がん温存術後照射の場合は25回、前立腺がん根治照射の場合は40回弱など)よりも、1回あたりの照射線量を増加することにより照射回数を減らして治療することです。
 厳密な定義はありませんが照射回数が1回から数回の場合は一般的には定位照射と言われることが多く、寡分割照射はそれよりも照射回数が多いものを指します。
 当院では乳がん温存術後照射に関しては保険適応となった2014年より適応症例に対して16回での寡分割照射を積極的に施行しており良好な結果を得ております。前立腺がん根治照射に関しては長期成績の充分な調査報告が無かったため、長らくの間、39回の照射方法を採用してまいりましたが、信頼できる寡分割照射の報告を確認することが出来ましたので2022年8月より前立腺がんの低リスクおよび中リスク症例に対しては15回での寡分割照射を開始しました。対象患者さんの負担は大幅に減り、好評を得ております。尚、前立腺がんへの寡分割照射の場合は通常照射よりも少し照射範囲が異なりますので、原則として後述のハイドロゲルスペーサーを留置させて頂いております。

④ 脊椎定位照射

 以前より転移性骨腫瘍は放射線治療の良い適応疾患として数多く施行されていましたが、脊椎に対して治療する場合は脊髄等の放射線耐容線量があまり高くない臓器が近傍に存在するため、通常の照射法では腫瘍を根絶させる程の線量を投与することができず、その治療目的は疼痛緩和や麻痺症状の緩和、予防といった対症目的がほとんどを占めておりました。しかしながら昨今、放射線治療技術の目覚ましい進歩により、脊髄等の近傍臓器への被曝は抑えつつ、脊椎腫瘍に対してはその制御が可能になるぐらいの線量を投与することが定位照射という技術を用いることにより可能になり、その有用性が多数報告されております。そのような状況を受け前述の通り、本邦では令和2年度の診療報酬改訂で体幹部定位放射線治療の適応疾患として直径5cm以下の転移性脊椎腫瘍が追加収載されました。治療適応の判断には慎重を要しますが、この技術を用いることにより小さな転移性脊椎腫瘍に対して対症目的に加えて寿命を延ばすという姑息目的でも治療をすることが可能となります。また従来の照射法では一度放射線治療を受けた部位に再び治療することは困難であることが多かったのですが、この定位照射の技術を用いれば再照射が可能となる場合もあります。従来の治療法に比べ計画する際には大幅に手がかかりますが、当院では画像技術科、放射線診断科との協力の下、2020年11月より治療開始しました。

図)赤色線で示された脊椎腫瘍に対して放射線治療をする場合、左図で示される通常照射(前後対向2門照射)では脊髄(黄色線)への被曝が多くなるが、右図で示される定位照射では軽減される。

⑤ ハイドロゲルスペーサー留置

 直腸は前立腺に隣接している臓器の一つです。通常、前立腺に対して放射線治療を行う場合、直腸の一部が高い線量の範囲内に入り、高い線量の被曝を受けます。それにより排便時痛、排便回数の増加、直腸出血などの副作用が生じる可能性があります。特に晩期に起こる直腸出血は放射線治療の副作用の中でも治療に難儀する可能性があり、最も避けたいものの一つです。
 ハイドロゲルスペーサー(商品名Space OAR)は放射線による直腸への障害を減らす事を目的として開発されたものです。前立腺と直腸の間に留置することにより直腸が前立腺から離れ、高い線量を受ける範囲外となり、放射線による障害を減らすことが期待できます。
 当院ではこれまでも前立腺癌に対してハイドロゲルスペーサーの留置をせずに多数の放射線治療を施行しており、様々な工夫によって直腸出血の発生頻度を極めて低く(0.5%以下)押さえておりましたが、2021年9月よりこの手技を採用し、直腸の副作用発生頻度が0%になることを目指します。また、その他の利点として照射の際に排便処置をする可能性が低くなることが予想され、患者さんの負担軽減が望めます。放射線治療計画も良好なものが立案しやすくなり、治療成績の更なる向上も期待できます。
 ハイドロゲルスペーサーの留置は局所麻酔(皮下注射)のもとで行い、手技に要する時間は約30分から1時間程です。手技後はしばらく待機室で休憩して頂いた後、当日中に帰宅して頂きます。留置されたハイドロゲルスペーサーは半年から1年で自然に吸収されて消失します。ハイドロゲルスペーサー留置は2015年に米国で発売されて以来、全世界で100,000以上施行されている安全性の高い手技で、本邦においても2018年6月に保険収載されてから全国の多くの医療機関で使用されています。手技の実施には専用の器具の導入と担当医のトレーニングが必要であり、富山県では当院が初めての実施となります。

図)ハイドロゲルスペーサー留置をする際に必要なステッパー等の器具

図)ハイドロゲルスペーサー注入の模式図
  超音波検査による監視下で経会陰的に前立腺と直腸の間に注入します。

図) ハイドロゲルスペーサー留置前後のMRI画像

図)ハイドロゲルスペーサーキット
  (画像提供 ボストン・サイエンティフィックジャパン株式会社)

⑥ 強度変調回転照射による動体追尾体幹部定位照射

 前述①の通り、当科では高精度な呼吸性移動対策治療法である、金マーカー留置動体追尾体幹部定位照射を2010年より開始しました。しかしながら,その照射方法は原則7方向からの固定多門通常照射を用いているため、小さな類球形の病変に対しては理想的な線量分布での計画を立てることが出来るものの、比較的大きな不整形の病変に関しては線量分布上での僅かな妥協を強いられることがありました。また照射をする際に特に注意を払わなければならない大血管や気管支、食道、腸管、脊髄などの臓器(危険臓器と呼ばれています)が病変近傍に存在している場合には固定多門通常照射では計画を立てることが出来ず、治療を断らせていただく事もありました。このような状況を解決するために、2023年4月から治療装置をバージョンアップし、強度変調回転照射(前述②)を用いた動体追尾体幹部定位照射が施行出来るようになりました。強度変調回転照射と動体追尾体幹部定位照射という二つの高度な照射技術を組み合わせることにより、より良い線量分布で高精度な体幹部定位照射が施行可能となり、治療適応範囲も拡大しました。この技術は全国でも施行できる施設は非常に限られています。 

図   固定7門通常照射の照射図 

図   強度変調回転照射の照射図

図   固定7門通常照射の線量分布図

図   強度変調回転照射の線量分布図

⑦ その他

 2017年度より、がん放射線療法看護認定看護師が配置され、放射線治療に関して更に充実したケアが出来る体制となっております。
 放射線治療は一般的に侵襲が少ないため、当科での診療は原則外来診療となっておりますが、抗癌剤の併用など入院加療が必要な場合はもちろん、遠方で通院が困難な場合でも関係各科に入院の上、治療することも可能です。

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